394豚 両翼の騎士、再会する
日が暮れかけていた。クルッシュ魔法学園から逃げようとする商人たちを横目で流し見ながら、男子寮の階段を上っていく。
後ろからはシルバが興味深そうに男子寮の内観を見つめて、きょろきょろと視線を彷徨わせている。何だかその姿は、学園にやってきたばかりのサンサみたい。
そんな珍しいものでもないだろうに。
「そういえば俺。初めて坊ちゃんの部屋に入りますよ!」
「別に大したことないって。それよりお前、本当に俺の部屋に泊まる気なのか?」
「だから、ずっと坊ちゃんの傍にいろって命令なんすよ! 俺にこの寒空の下、野宿しろっていうんすか! つうか、この学園広すぎなんすよ!」
「別にいいけど……俺の部屋、寝室が幾つもあるし」
男子寮四階は貴族の中でも上位に位置する者たちが住まうことになっている。
だからってわけじゃないけど、四階から一気に部屋の作りががらりと変わるんだ。単純に言うと、部屋数が増える。
「うそー! 坊ちゃん、廊下に絨毯引いてあるじゃないっすか! ここ、ただの学生寮っすよね!? 豪華すぎません? ここで寝れるじゃないすか!」
「シルバ、うるさい」
廊下を進み、俺の部屋に繋がる扉を開ける。すると、室内から誰かの喋り声が聞こえてきた。
誰だ? そろりそろりと、足音を立てず慎重に進むと、リビングには人の姿。
「スロウ様、どこに行っていたんですか、探したんですよ!」
「え、そうなの? ごめん、シャーロット。ちょっとシルバに連れ回されてさ……」
シャーロットだけじゃない。サンサとコクトウの姿もあった。
それにシルバが会いたがっていたクラウドも。何て言うか勢ぞろいだ。シルバは俺の背後から顔を出して、大声を上げた。
「――うわ、メッチャ久しぶりじゃないすか! クラウドの旦那! ここにいたんすか! ……ていうか、めっちゃ懐かしい! 最後に見たのって10年前とか、それぐらいっすよね!? 全然変わってないっすね! うはは、おもしれえ!」
クラウドに抱きついてはしゃいでいるのはシルバ。
そうだよな。この二人にしたって、再び出会うのは10年振りとか、それぐらいの期間になるのか。クラウドはシルバに身体中を撫で回されて、露骨に嫌な顔をしていた。その様子を何故か微笑ましい様子で見つめるのはサンサだ。
「やはりシルバ。お前も召集されたか……」
「てか、クラウドの旦那! 変装……してないんすか! 残念-、めっちゃ見たかったのになあ」
「シルバ、お前。緊張感をだな……はあ、まあいい。お前は相変わらず変わらん奴だ。昔からお前はそうだった。お前に大人になれというのが、酷な話か」
この面子を見ると、不思議と胸の奥がじーんとする。
でも、懐かしき再会をぼけーっと見ているわけにもいかない。
部屋を見渡すと一つ違和感。
部屋の中が綺麗に片付けられていた。というか、部屋の物が減っている。
代わりに大きな鞄が幾つも。まさか俺の荷物、あの中に詰められた? この手際の良さはシャーロットだよな? 引っ越しでもするのか?
答えを教えてくれたのは、サンサだった。
「スロウ。私もお前も、ヨーレムの町に避難することになった。奇しくも、同じ宿だ。口答えするなよ、父上からのご命令だ。特にお前たちは四人で固まっているようにとのことだ。積もる話もあるだろうが、行くぞ。ほら、荷物を持て」
そう言って、俺は訳も分からないまま、鞄を背負うように促されたのだ。う、重い。パンパンの鞄、シャーロット。どれだけ物を詰め込んだんだ……。
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