395豚 ミントの正体

 あのバルデロイ・デニングがクルッシュ魔法学園にやってきた。


 俺が真っ黒豚公爵となったことで一番迷惑が掛かったのは、間違いなく父上だろう。父上は俺を次期公爵とするために俺を色々な場所に連れ出して、あの頃は誰もがスロウ・デニングが次期公爵になるものだと思っていた。


 父上が学園にやってきて俺に一言ぐらい何かあるのかと思ったら、俺も大勢の学生と共にヨーレムの町へ向かう羽目に。


「公爵様の一声でこれですもん。やっぱり公爵ってのは凄いもんっすね」


 馬車の中にはクラウド、シルバとシャーロット。

 口笛を吹きながら窓の外を見つめているのはシルバ。大精霊さんはシャーロットの膝の上で丸まっている。


「だけど、まさか回れ右になるなんて思ってなかったっす。まぁ坊ちゃんと一緒なら、高級な宿に泊まれるだろうし、結果オーライなんすけど。あ、別に俺は坊ちゃんの部屋でも良かったんですけどね」


 クルッシュ魔法学園が学園を離れた生徒のために、避難先の宿をヨーレムで確保しているという。

 だけど、全学生には到底足りないから空き屋なんかも活用するらしい。


「ヨーレムの街といえばあれを思い出しますね坊ちゃん。クラウドの旦那、知ってますか? 俺と坊ちゃんで――」

「黒龍討伐だろう? 知らないわけがないだろう」

「あれ。クラウドの旦那は国外にいることも多かったんでしょ?」

「人を世間知らずだと思うなよ、シルバ」


 クラウドとシルバの二人は再会したばっかりだというのに、早速ボケ突っ込みを始めている。


 何だか懐かしいやり取りで、シャーロットも俺の隣でずっとニコニコ。楽しそうに二人のやりとりを眺めている。俺とシャーロットに両翼の騎士。俺たちの関係は特別だった。あの頃の俺たちはこうやって毎日顔をつきあわせて、どこへ行くにも一緒だった。俺が風の神童なんて呼ばれるようになったのは、半分ぐらいはこの二人のおかげだろう。


「スロウ様。そういえば公爵様とは話せましたか?」


 クラウドが聞いてくるが、俺は首を振った。


「まさか。顔すら見ていないよ」

「……そうでしたか。すみません、余計なことを聞いてしまった」


 申し訳なさそうに頭を伏せるクラウド。昔からそうだが、こいつは気を遣いすぎる。


「いいよ、気にするな。俺は父上から嫌われているからな」


 二属の杖ダブルワンドをサーキスタ大迷宮から奪取して、少しは褒められるかと思ったけど。


「クラウドの旦那! そろそろ、教えてくれてもいいんじゃないっすか? 魔法学園で何が始まるんす

か?」


 シルバがもう我慢の限界とばかりに、座ったままクラウドに詰め寄った。


「シルバ。動揺しているサンサ様の姿、お前も見ただろう? サンサ様ですら訳が分からないと動揺しているのだ。俺ごとき末端に公爵様のお考えを知らされているわけないだろう?」

「だけど、旦那は潜入していたじゃないっすか。それにその顔は何か知ってる顔っすよ」

「どんな顔だ。俺はただ、クルッシュ魔法学園の詳細な地図を作るために……おっと、今のは聞かなかったことに……」


 そうなんだよなあ。あのサンサも父上の来訪が早すぎると驚いていた。

 父上の秘密主義が今に始まったことじゃない。だけど、次期公爵候補とも噂されているサンサになら考えを明かしてもいいと思うけど。


「あーあ。昔の旦那なら、俺たちに隠し事なんてしなかったのになあ」

「……」

「でも、驚いたっすね。噂に名高い戦女神が、旦那と一緒に魔法学園へ潜入していたあの小さな女の子だったなんて」

「……っ」


 シルバが唐突に呟いた言葉に、クラウドが目に見えて狼狽えた。

 その反応を見逃す俺じゃない。


「シルバ。どういうことだ」

「え、坊ちゃん。知らないんすか? あの子が、公爵様が隠し続けてきた専属従者サーヴァントなんすよ。確か、名前はミント――」


 こいつは、いつもそうだ。


 シルバの奴はどこからともなく情報を仕入れてくるが、それがどれだけ重要な情報であるかに気付いていない。少なくとも、シルバの言葉に俺は言葉を失ったし。


「え、え、ええ!? シルバさん、それ。どういうことですか!?」


 シャーロットなんて急に立ち上がり、馬車の中で転げそうになっていたぐらいだ。



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最近書いている新作もよろしくです。

https://kakuyomu.jp/works/1177354054921865154


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