393豚 何が起きているのか

「坊ちゃん――俺だって突然呼び出されたんすよ。もう何が何だかって感じですけど、何やら大きな話し合いがここで行われるみたいっすね」

「大きな話し合い……か。他には?」


 緑がよく映える公園の中、ちらほらと葉っぱが色づいて落ちていく。シルバと隣同士でベンチに腰掛けて事情を聴こうと思った。


「シルバ、お前が知っていることを全部教えてくれ」

「……えっと」


 デニング公爵家の主要な面子が今、クルッシュ魔法学園に集まっている。これは異常事態だ。俺は懐かしい同窓会みたいな感じだけど、周りはそうじゃない。


「……」


 あのモロゾフ学園長が学園全体に呼び掛けて、避難を呼びかけているんだから。父上のやつ、何を考えているんだよ……。本当に迷惑な人だな……。もはや俺の従者を決めるとか、そんな規模の話じゃないだろ……。


「要するにシルバ。お前は何も知らないってことでいいな?」

「ていうか、俺も被害者なんすよ」


 シルバも何が何だかという感じだったらしい。


「坊ちゃん、あの人ですよ。公爵様の側近、あのおっかないメドレさんに王都で捕まって、馬車に乗れって言われて、そしてここに連れてこられたってわけです」

「メドレまで来ているのかよ……」

 

 メドレは父上の側近だ。最も信頼を得ている騎士の一人。顔に大きな怪我があって、街中で見たら絶対に絡まれたくない外見の男。騎士としては非常に優秀で、父上も大きな信頼を寄せている。

 自分の境遇を話し終えるとシルバは周りをきょろきょり。

  

「それで、坊ちゃん。クラウドの旦那はどこにいるんすか? 変装している姿、見てみたいんすけど」

「お前は気楽だな……分かってるだろ、この学園で何が行われるか」


 もはや考えるまでもないな。父上が引き連れてきた連中の顔を見ても、武闘派ばっかり。公爵家が抱えるヤバい面子――ここで、戦いが行われる。

 そういえばロコモコ先生が以前、食堂で言っていた。

 バルデロイ・デニングが賊に襲われたって。


「勿論。あのケチな王室が、俺にを与えたんですから。でかい何かが始まる予感っすね。楽しみじゃないすか」


 そう言って、腰に差した鞘の中からシルバは光の付与剣エンチャントソードを自慢げに光らせる。


「ほら、坊ちゃん。クラウドの旦那のところ行きましょうよ。久しぶりの再会じゃないすか。俺達が集まったら怖いものなしっていうか!」


 確かに久しぶりの再会だよ。俺が真っ黒豚公爵になってクルッシュ魔法学園にやってくる何年も前から、シルバもクラウドの二人とも自分の道を歩き出していた。

 シルバは守護騎士ガーディアン候補、平民の星として。

 クラウドは公爵家デニングの便利屋として。


 シルバに押し切られる形で呑気にクラウドを探し回っていると、何人かの生徒に話しかけられた。だけど、残念。俺も何も知らない。逆に彼らはどうするのか聞き返すと、学園長の要望通り、ヨーレムの町に避難するらしい。貴族の生徒には学園が宿を用意しているのだとか。


 暫くの間、学園を二人で探し回ったけど、残念なことにクラウドの姿を見つけることは出来なかった。あいつも公爵家の一人として何か目的があって、クルッシュ魔法学園に忍び込んでいたんだ。公爵家に報告とかしてるのかな。


 ていうかシルバの奴、ずっと俺の傍にいるけどいいのか?

 父上と一緒にやってきた騎士達は忙しそうに学園の中を動き回っているというのに。自由すぎない?


「え? 坊ちゃん。俺は坊ちゃんの傍にいるようにって命令を受けているんすよ」

「……え? そうなの?」


 そんなの聞いちゃいないぞ。

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