391豚 デニング公爵の来訪
俺の父上は、騎士国家の民から愛されている大物だ。
俺からすれば真面目で融通も利かない男だけど、国を第一に考え、身を粉にして働き続けているところは文句なく尊敬出来る。
そんな公爵家当主。
バルデロイ・デニング来訪の話は、雷鳴の如く魔法学園を駆け巡った。
「公爵様の姿を正門で見たぞ! 騎士団も一緒だった!」
「学園長が直々に出迎えてたぞ? これから話し合いをするらしい!」
誰もが怯えた顔で話し合っている。
無理もない。誰だって父上の英雄録を聞くのは楽しいけれど、危険な奴が近くにやってくるのは御免被りたいというわけだ。
父上は尊敬されていると同時に、それ以上に恐れられてもいる。いっつも不機嫌にしかめっ面だし、少しは俺みたいにニコニコしてたら印象も変わるだろうに。ぶひ。
「公爵様が連れてきた騎士団の怖い目つき、見たかよ……。王室騎士団よりも、遥かにおっかないぞ」
「学園長が早く避難しろって言ってるし……ここが戦場になるって噂だ」
さらにみんなの怯えを助長しているのは、学園長が正式に学園からの避難を呼び掛けたからだろう。詳しい説明は何もない。
だけど、あの学園長が今朝から学園の避難を呼びかけているんだ。
一応、この学園から一番近いヨーレムの町の宿に住まいを確保しているというが、学園関係者全員をヨーレムの町に避難させるのは難しいだろう。
「モロゾフ学園長もどうしてあの公爵様を受け入れたんだ、折角学園が綺麗になったのに……」
「長生きしたかったら、公爵家の当主だけには関わるなって常識だよな……」
風評被害じゃない。
父上のいる場所に争いが起こる。
というより、父上は争いの起こるだろう場所を先取りして向かっているのだ。
だから、彼らの考えはあながち間違っていない。
「ふむふむ、ぶひひ。なるほどぶひねえ」
慌ただしい学年内を、悠々と歩く。
「スロウ様、何で笑ってるんですか」
「ぶひ。父上がさ、俺よりも嫌われてるんじゃないかって思ってさ、ぶひひ」
「嫌われてるってよりは、怖がられてるって感じですけど……でも、やっぱりクラウドさんが学園にいたのは公爵様と関係があったんですね……」
「あいつ、ケチだよなあ。あんだけ毎晩、歓迎会を開いてやったのに、何も教えてくれないんだもん」
「最近はクラウドさんもスロウ様が毎日やってくるもんだから困ってましたよ?」
「え?」
あの野郎……俺が労をねぎらってやったというのに……。毎晩だったのは、単純に暇だったからだ。それにクラウドのこれまでを聞くのは楽しかった。あいつはあいつで楽しい経験している。
パーティ代は全部、クラウドに払ってもらったけどな。
しかし結局、クラウドも父上が学園にやってくる理由については何も教えてくれなかった。
「スロウ様、これまでお世話になりました……」
突然、シャーロットが頭を下げた。
「ちょ、ちょっと! シャーロット、突然なにさ!」
「だって……公爵様がわざわざやって来られるってことは……そういうことですよね……私がスロウ様の従者として相応しくないから……」
当然、シャーロットも実際に父上が学園にやってきて困惑している。
俺の新しい従者候補としてサンサからミントちゃんが紹介されての父上来訪だからな。でも、俺はあの忙しい父上がわざわざ俺の従者がどうのこうので学園にまでやってくるとは思えなかった。
「それは違うと思うけど……あ、シャーロット。あそこにいるサンサを見て。あいつも困った顔してるよ」
「サンサ様は公爵様がやってくること、知らなかったんでしょうか?」
校舎の隅で、サンサは従者である大男、コクトウや仲間の騎士達と何かを話し込んでいた。何やら険しい顔で、騎士達に指示を出している。あ、何か命令を受けた騎士達が走ってどこかに行く。
どうやら、サンサの奴もこれだけ父上がやってくるなんて知らなかったらしい。
「ん?」
あ。サンサと目が合った。
あいつは何やら怒った顔で、こっちに向かってずいずいと歩いてくる。な、何だよ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます