388豚 片翼の騎士、クラウド
オークの巣は金になる。
元々、洞窟や廃村を利用して拠点を作るオークが巨樹のウロの中や、柔らかい地中に巣を作る場合がある。オークがゼロから拠点を作る場合は、何か隠したいものがあるからと言われていて、大抵それは人間にとって金目のものだったりするんだよ。
「うわあ……オークだ……オークだ沢山、しかもあれ。先輩が言っていた通り、オークの巣ですね……授業で習いました。オークが巣を作るのは特別なんだって……」
俺とティナはぶひぶひのオークさん達から少し距離を取って、大樹の裏に隠れていた。暗がりの中からひょっこり顔を出しているのオークさん達気付く気配なし。
ぶひぶひぶひぶひぶひぶひ。
ブヒブヒ言いながら、せっせっと土を運ぶ穴の中から掘り返すオークたち。たまに、仲間同士で頭をぶつけて喧嘩をはじめたりしている。あーあ、前を見て歩かないからそうなるんだよ。やっぱり間抜けな生き物だなあ。
「てか……先輩、なんで森の中にある巣の位置が分かったんですか……結構、学園から距離ありましたよ……」
ティナが口をあんぐりあけて、俺を見つめる。
迷わずに三十分ぐらい森の獣道を歩き続けたからな。文句も言わずついてきたティナも凄いとは思うが。俺が通ったのはモンスターに出くわすこともある真夜中の獣道。普通の女の子なら、帰りたいっていうだろ。
「俺は勘がいいんだよ」
「……うわ。先輩、理由を教えてくれないんだあ」
だって教えようもないしなあ。ただのアニメ知識だもん。
アニメの中じゃ確か秋も深まるこの時期にシューヤが森でオークの巣を見つけて中にいるオークキングを討伐するんだよ。まだアニメで見たオークの巣ぐらい大きな規模じゃなかったけど。
「やっぱり、先輩の傍にいたら……美味しい話にありつける……」
「何か言った?」
「な、何でもないです! 何も言ってませ――ふご! ぐふぉ!」
「静かに」
声が大きいから、その口を慌てて抑えた。
ふ、ふう。どんくさいオークさん達から見つからないよう、大樹の裏側に隠れているってのに。まだオークの巣は作り立てだけどそれでも厄介だ。
「ご、ごめんなさい……そりゃあ見つかったらやばいですよね……オークとはいってもあの数ですもん……」
「え? 別に何の問題ないけど――」
だってオークだもんなあ。オーク、オーク、あのオークだ。
ぶひぶひぶひに俺が負けるわけないでしょ。ティナ、何言ってるんだ?
「……うわあ、強気」
首をひねった俺を、ティナが羨ましく見つめていた。
数日後、すっかりオークの巣を楽しんだご様子の大精霊さんがシャーロットの元に帰ってきた。意気揚々と、俺の部屋にやってくた。俺ぐらい玄人になると、大精霊さんの口角が上がっていることに気付く。ほら、おひげもぴょこぴょこ動いているし。
上機嫌だな、オークたち相手に楽しんだらしい。
「……あ、あー! スロウ様、帰ってきましたよ!」
てか、今あいつどうやって俺の部屋の扉を開けた? ……まあいいか。
いつもシャーロットが綺麗に毛並みを整えてあげているってのに、努力を無にするぐらいの泥だらけの姿で戻ってきやがって。
「泥だらけじゃないですか! あ、絨毯の上を歩いたらだめですって!」
はあ。
中々、学園に帰ってこないからシャーロットが心配していたっていうのに呑気な奴だ。って、おい! 俺の部屋に堂々と入ってくるな! お前の足跡が床に!!
「楽しすぎたにゃあ。オークをいじめるのは最高にゃあ」
「……相変わらず性格が悪いな。それより、こっちの用件は片づけてくれたのかよ」
「ばっちしにゃあ。にゃあを誰だと思ってるんだにゃあ」
「じゃあ、聞くが。ミントちゃんは何者なんだよ」
「……そっちよりも楽しい奴を見つけたにゃあ。スロウ、お前もきっとびっくりするはずだにゃあ。懐かしいにゃあ。今すぐ、ジオールって店にいけにゃあ」
「懐かしい? それにジオールって……どこかで聞いたことがあるな……」
「大精霊様! 洗濯です! 今すぐに!」
俺がアルトアンジュから聞き出そうと思っていたけど、そのままあいつはシャーロットに抱きかかえられ、洗濯に連れていかれた。南無三。
普通の猫と同じように、あいつも水浴びが嫌いなのであった。
学園の正門から続く白い石畳で作られた正門、いわゆるメインストリート。
正門から見てメインストリートの左側に俺たち学園関係者の居住区となっていて、その中には数多くの店が立ち並ぶ。学園で売り上げる利益というよりは、将来国を背負っていく若者の店のブランドを知ってほしいって狙いがあるみたいだ。
その中の一つがカフェ・ジオール。古く赴きがあるダークブラウンの内装が特徴的、学生たちに暫しの憩いを提供するカフェこそが、あのニート大精霊さんが俺に伝えたジオールである。
店内に入ると、暗めな内装と、少ないダウンライトの照明が俺を出迎える。
一人、店員がいた。
カウンタ―の中で、顔の上半分を隠すようなつば広の帽子を被っている。そいつは俺を見て、固まっていたようだが、俺はすぐに気づいた。気づいてしまった。
「よう。変装なんかして、何の悪だくみか? クラウド」
すると、引きついた笑みで、あいつは俺を見返した。
「何故、俺だと分かったんですか……スロウ様」
かつて、俺の片翼の騎士として活躍してくれた男がそこにいた。
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