385豚 オークの秘密基地
父上が、直属の部下を送り込んで何やら動き始めているのは間違いない。
サンサは父上の思惑に何も勘づいてないみたいだけど、俺はあの男の手の上で転がされるのは御免だ。あっちが動いているなら、こっちも動くまで。
俺たちの切り札、それは勿論、風の大精霊さん。滅多に役立ってくれないけど、サーキスタ大迷宮では中層まで助けにきてくれたことは記憶に新しい。
「あの子はオークの秘密基地で手を撃つらしいです。スロウ様、大丈夫ですか?」
翌日、シャーロットが俺の休憩時間を見計らって声を掛けてきた。傍らには父上の直属であるミントちゃん。昨日念押しされたように、振る舞いは俺の顔色を窺っているような弱弱し気で、その正体が父親の直属なんて誰も思わないだろう。
俺はミントちゃんに聞こえないように、シャーロットの耳元で囁いた。
「――分かったと、伝えてくれ。今夜、学園を抜け出して森へ探しに行く」
時刻は深夜。
部屋の時計を確認し、頃合いを見計らう。
学生がクルッシュ魔法学園の外に出るには許可がいる。公爵家という地位を使って申請を出してもいいけど、今回は突然のことだったのでそんな時間は無かった。
ミントちゃんを通じて、出来る限り早急に父上の思惑を知りたい。
だから俺は窓を開け、四階の自室から飛び降りた。
重力に従って、地面へ落ちる。
着地の衝撃を弱めるために、風の魔法は忘れない。
人気の無い学園、今はサンサがいるから、定期的にあいつの騎士が学園内を警戒している。サンサは公爵家の中でも重要人物にあたる逸材だからな。
将軍として活躍しているサンサにも当然、敵は多い。
その身はいつだって守られている。
「あれは……サンサの取り巻き連中か。サンサの奴も教育に熱心なことで」
学園の門へ向かう途中で、学生の一団を見つけた。そういえば噂で、サンサが軍属志望の学生を集めて、森で鍛えているって聞いたな。
燃える
森の中で、サンサと一緒にモンスター狩りでもしていたのか。
サンサの傍にはあいつの専属従者であるコクトウの姿も見える。疲れ切った学生とは対象的にコクトウは快活に生徒らの背中を叩いていた。
クルッシュ魔法学園を卒業し、軍属となる学生は毎年、100人近くいるらしい。その中でも最も優秀な一握りのみが、公爵家直系が指揮する部隊へ配属される。
あの学生達は卒業後、何が何でもサンサの部隊に配属されたいんだろう。
公爵家が指揮する部隊の戦場は過酷で命が削られる、だけどそれ故に武功を挙げる機会も多い。彼らはそれを知っているのだ。
「リキュラー軍曹! サンサ様らの帰還後、森に異変は無し! 監視を続けます!」
門の傍には衛兵が常時、滞在している。
彼らは目を光らせて、学園の外を見張っている。熱心なことで。ただ、俺にはアニメ知識がある。サーキスタ大迷宮では活躍することは少なかったけど、学園を守るように取り囲まれた門にも抜け道というものが存在しているのだ。
白塗りの門に擬態した扉の存在、知るものは今やモロゾフ学園長ぐらいだろう。
だけど、扉の前には先客がいた。
「君、何しているの?」
「先輩こそ、どうしてここに……」
黒髪の女子生徒、名前はティナ。
俺もよく知るアニメキャラクターの一人にして、先日の
あの
忙しいから、断っているけど。
「ティナ。学園の許可なく、外に出ることは禁止されている。それは知っているね」
「な、何を言ってるのか分からないんですけど……先輩、私はただ夜の散歩に行こうとしただけですよ?」
「今、隠し扉を開こうとしていただろ」
こんな夜中に、彼女はあろうことか学園の外に抜け出そうとしていたのだ。
森の外で生きるモンスターは夜になると活発化し、人間を見ると躊躇なく襲ってくる。サンサ達がこの時間帯に学園に戻ってきたのも、これ以上生徒を連れまわすには危険すぎると判断したからだろう。
「せ、先輩……どうして、これのことを知っているんですか……」
彼女は土の魔法使いだ。
確かにモンスターへの対処は可能だろうし、森の浅い所では強力なモンスターも出てこない。常識ある先輩としては、彼女の行動は止めなくてはならないだろう。
でも俺は知っていた。
彼女には金を稼がねばならない理由があること。それに彼女はアニメの中でも何度もこの隠し扉を使って、学園の外に出ていた。それがきっかけでアニメではシューヤとも仲良くなったしな。残念ながら、今のティナはシューヤのことを危険なマジックアイテムを使って心を蝕まれたヤバい人としか思っていないみたいだけど。
「俺は今から、オークの秘密基地を探りに行く。良かったら、君も来るか?」
俺の誘いに、二つ返事で彼女は頷いた。
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