381豚 親の心、子知らず
バルデロイ・デニング。あの男はヤバい。
自分の父親だ、俺はあの男の考えをよく知っている。
本気で、この魔法学園を戦場にするつもりだろう。公爵家当主を襲う連中をこの魔法学園に連れてきて、俺とシャーロットに何かしらの試練を与えるんだろう。
元々、シャーロットのことをよく思っていなかったしな。
相手はあのバルデロイ・デニングに怪我を負わした連中だ。シャーロットにそんな物騒な連中をどうにか出来るとは思えなかった。
「スロウ様、何言ってるんですか。逃げるなんて、スロウ様らしくないですよ」
「……シャーロット、俺は本気だよ? 悪い予感がしてならないんだ」
夜になって男子寮を抜け出して、シャーロットと二人。
夜のクルッシュ魔法学園を散歩しながら話し合う。
「それよりスロウ様、夜の学園ってなんだかドキドキしますね」
「それは同感だけどさ」
深夜になると、人通りも明かりもない。
この魔法学園はモンスターに襲われることもあったけど、基本は平和だ。
それかどこかとの戦時中とかじゃないとさ。
「シャーロットも俺の父親がどんな人間かは知ってるでしょ? あの男なら危険な奴らをこの魔法学園に連れてくるぐらいはやりかねないよ」
だけど、そんな魔法学園が戦場になると俺は思っている。
俺の父上の仕業によってな。
「公爵様はちょっと変わった人ですけど、無茶なことはしませんよ?」
「無茶ばっかりだって……ていうか、無茶苦茶な奴じゃないと公爵家の当主なんて務まらない。俺は密かにあの人は心臓が二つあるんじゃないかって疑ってる」
バルデロイ・デニング。
戦場こそが自分の生きる世界だと信じて疑わない男。国のために全てを捧げていて、女王陛下命なマルディーニ枢機卿とはまた違う厄介なタイプだ。
「スロウ様、立ち止まって、どうしたんですか?」
「な、何でもない……」
……シャーロットの姿に見惚れていたなんて、恥ずかしすぎて言えるわけない。
「私思うんですけど……スロウ様の言う通りなら、公爵様はきっとスロウ様に期待しているんだなって気がします。スロウ様がいなくちゃ、公爵様を襲った人たちをここに連れてくるなんて思わないですから」
お、俺に期待?
……確かに父上は昔から俺に期待していた。期待し過ぎていたと言ってもいい。
本来は公爵家当主なんて立場、簡単に決めていいものじゃない。
だけど、俺が真っ黒豚公爵になるまでは、スロウ・デニングが公爵家の次期当主ってのは確定路線だった。
「公爵様は昔からスロウ様に溺愛していたじゃないですか。今は公爵家の次期当主って期待されている方々がサンサ様を中心に何人もいますけど、昔はスロウ様一人だけ。今のスロウ様を見て、きっと公爵様も嬉しがってると思います」
「それで敵をこの魔法学園に連れてくるって、愛情歪み過ぎだと思うんだけど」
「それは……公爵様なりの愛情表現というか……」
まあ、俺は危険極まりない公爵家当主になって、シャーロットと離れ離れになることが嫌で堪らなかったし、今でも公爵家当主になるつもりなんて一切ないけどな。
「ほらスロウ様! 元気出してください! いつものスロウ様らしくないですよ!」
むぎゅっと、両頬を触られる。
シャーロットがすぐそこに。新雪のような白い髪、感情がよくわかる大きな瞳。そして俺の顔が赤くなる。
「まだ公爵様が危ない人たちを連れてやってくるって決まったわけじゃないですし、もしかしたらスロウ様の様子を見に来るだけかもしれないじゃないですか! 怪我していたなら、ちょっとお休みしようって思ってるだけかもしれませんし! 私も、スロウ様の従者として相応しいと思われるように頑張らないと!」
はあ。
笑顔で俺を見つめるシャーロットを見ていると、俺の悩みなんて軽く吹っ飛んでしまうのだから困ったもんだ。
「……」
絶妙の距離で、ミントは二人の様子を観察していた。
特に勘の鋭いスロウに気付かれず尾行するのは並大抵のことではない。神経を削りながら、ミントは額に浮かぶ汗をぬぐい、微笑ましい二人の姿を見つめる。
「若様ったら、のんきなことで」
夜に寮を抜け出して、デートなんて羨ましいったらありはしない。
そもそも公爵家の関係者でありながら、こんな平和な魔法学園で生活をしているスロウ・デニングという存在が可笑しいのだ。
「参っちゃいますね。あれは私の付け入る隙、ないですよ」
スロウ・デニングの新しい従者候補として選ばれるよう、振る舞ってきた。
それもこれも、二人の絆を確かめるため。
――下らない。そう思わずには、いられない。
だって、ミントの目には合格に映っている。
あの二人を引き剝がすことは、百害あって一利なし。スロウ・デニングの父親だって、とっくの昔に気付いている。気付いていながらこうも周りくどい方法で、シャーロットに資格を与えるために奔走している。
――
「親バカには困るって奴です。
そして、バルデロイ・デニングの
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