380豚 逃げるか、戦うか
ロコモコ先生が適当な話をするとは思えなかった。
この人は確実な情報がないと動かない。アニメの中でも、ロコモコ先生は重要な情報を独自で集めていた。大半の出どころは、モロゾフ学園長だろうけどさ。
ロコモコ先生は、モロゾフ学園長の考えを実行する役割も持っているんだ。
でも、公爵家の当主に関する話題を俺に出すなんて。しかもかなりホットな話だ。
「ロコモコ先生! 今の話って――」
「おーい、デニング。席を立つのは、全部食べてからにしろよー? ほら。お前が急に立ち上がるから人目を集めちまうじゃねえか当然、聞かれたくねえ話だろ?」
「っ。急にとんでもないことを言い出したのは先生のほうじゃないですか」
公爵家、それはこの
規模も領地も、国家に対する貢献も他の貴族の追随を許さない。デニングは、名実ともに騎士国家の大貴族であり、数ある小国を凌駕する軍勢を独自に所有している。
そんな公爵家の中で最も偉い人間が、俺の父上だ。
「何言ってるんだよ。お前だって、シューヤの件で俺にとんでもない話をしただろ。どっちかって言ったら、あっちのほうがやばいだろ。公爵家の当主なら、そういう可能性があることはこの国の人間なら誰でも知ってるからな」
ロコモコ先生の言う通り、公爵家には敵が多い。
俺たちを憎んでいるのは国外だけじゃなく、国内の貴族にも多いんだ。護国を貫くデニング公爵家。表には出せない闇の仕事だって俺たちの仕事だ。
「ロコモコ先生。こんな話を俺に聞かせて、何が狙いですか?」
「お前の姉であるサンサ・デニング。あのクソ忙しい公爵家の人間がこのクルッシュ魔法学園に日程も未定で滞在し続けているこの状況は普通じゃねえよ。お前は家族だから感覚が麻痺しているのかもしれないが、俺は元
「それは……」
「お前の従者が相応しい、相応しくないって公爵家の事情も分かるけどな、それがサンサ・デニングの貴重な時間と同等の価値があるとは思わねえ。デニング、お前も可笑しいて思わなかったのか? お前の姉は将軍だぞ?」
「……」
思わず、納得してしまった。
俺はどうしてもサンサのことを昔から知っている家族としての目で見てしまう。だけど、サンサはもう昔のあいつとは違うんだ。
あいつは既に国を引っ張っている軍人で、あいつのためなら命を捨てても惜しくないって思ってる部下が大勢いる。
「それになデニング。お前の父親が襲われたのは、ここ最近の話じゃねえんだ。なのに、あのバルデロイ・デニングが襲撃者にお返しの一つもしていないって話だ」
「え。それは妙な話ですね……」
俺が知っている父上なら、攻撃を受ければ即座に反撃をする。
そしてここで問題なのが、バルデロイ・デニングという男が行う報復が他国にも知られるぐらい徹底的なことだ。
「だろ。俺はなデニング、公爵家の奴らがこの学園を使って何かとんでもないことをやるつもりなんじゃないかと思ってな――正直、不安だ」
「シャーロットー! シャーロット、どこだー! どこにいるー!」
午後の授業をすっ飛ばしてシャーロットの姿を探した。探し回った。
ロコモコ先生と俺の意見は一致した。何かが可笑しい。
父上が襲われ、忙しいサンサがクルッシュ魔法学園に滞在中。
サンサの滞在日程は未定。父上が襲撃者への報復もせずに大人しくしている。さらに、これはロコモコ先生も知らない話だけど、父上が今度、クルッシュ魔法学園にやってくるという話だ!
頭の中で導かれる結論は一つだけである。
「スロウ様! 声、大きいです! それに授業はどうしたんですか、サボるの早すぎですよ!」
「そんなことはどうでもいいんだよ! 緊急事態だ、父上が――」
「公爵様がどうされたんですか?」
シャーロットはメイドに交じってミントちゃんに洗濯のやり方を教えていた。
もしもミントちゃんが俺の従者になったとき、洗濯の一つも出来なかったら困るだろうって親切心かららしい。
だけど、シャーロット、それは違うよ。
ミントちゃんがやろうとしている役割は
万が一、ミントちゃんが俺の従者になったとき、彼女に洗濯をやらせようなんて人間はこの国で一人もいないだろうけど。ミントちゃんもシャーロットから洗濯を教えられて、少し戸惑っているようだった。
俺はメイド達からの輪の中からシャーロットを連れてくる。俺のただならぬ雰囲気を察したのかミントちゃんもついてきた。
まあ、ミントちゃんも公爵家の関係者。それも公爵家直系である俺の専属従者、公爵家の中でもかなり深い所に食い込もうとしている人間だ。
聞かれたって構うものか。
二人に父上が襲われたことを話すと、意外にも先に反応したのはシャーロットの傍にいたミントちゃんだった。
「わ、若様、その話をどこでお聞きになったのですか!?」
「君、もしかして知っていたのか」
「それは……」
俺の父上が襲われたっていうのは、かなりのビックニュースだと思う。
なのに、やけに落ち着いているミントちゃん。
サンサが送り込んできた俺の新しい従者候補様は顔色一つ変えていない。対照的なのはシャーロットだ。びっくりして、言葉も出ないらしい。
「若様もご存じの通り、公爵家は敵が多い。御当主様が襲われることは、よくあることですから」
「よくあるって、公爵家はそんじょそこらの貴族とは違う。うちの人間を襲うってことは……それはもう戦争だ。ミントちゃん、知っているなら教えてくれ。一体、誰の仕業だ」
「ご安心を、御当主様は無事です。手傷を負いましたが、日常生活に影響を与えるほどではありません」
裏の世界では、俺たち公爵家関係者の首には高値がついている。
だから女王陛下と同じように、公爵家の当主である父上には常に腕利きの護衛が数人付いていた筈だ。
なのに今回、父上を襲った賊は、護衛達を突破したということだ。
それってつまり、尋常じゃない。
俺はまだ現実が呑み込めていないシャーロットの手を取る。
事態は切迫していた。
「シャーロット、今すぐに学園から逃げよう――ここは、戦場になる」
俺の勘が言っていた。
バルデロイ・デニングは、あのクソ野郎は、このクルッシュ魔法学園を、報復の戦場として考えている。
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