379豚 襲われた公爵家当主
クルッシュ魔法学園は今、俺の姉上であるサンサに夢中だった。
この騎士国家、軍属のトップに位置するサンサに気に入られようと、男子学生がサンサが立ち寄りそうな場所に偶然を装って居合わせたり、女子学生が女性でありながら軍部を生き抜いているサンサを称えたり、誰もがあいつの一挙一動に気を配っている。
でも、サンサ一派が俺を虐めているなんて誰も知らないんだよな。
「あいたたた……」
俺は今、自分の部屋で、シャーロットから傷の手当を受けていた。
別に魔法で治せばいいんだけど、これも立派なシャーロットとの時間だからさ。
「スロウ様、私が従者として相応しくないからボロボロになっちゃいましたね。ごめんなさい私が全然役に立たなくて……」
「いやいや、シャーロットのせいじゃないよ。俺もまさかコクトウの奴が本気で狙ってくるなんて思わなかったし」
襲い掛かってくるサンサの従者であるコクトウ。あいつから俺を守り抜けなんて、シャーロットには悪いけど不可能だろう。あいつの力量は公爵家の中でも群を抜いている。それを戦いが苦手なシャーロットに何とかしろって無茶すぎる。
俺は反撃せず従者に身を任せるって話になってるから、俺の身体はボロボロだよ。
「あいたっ」
「ごめんなさい! スロウ様、沁みました?」
「だ、大丈夫ぶひ」
俺の従者として、シャーロットが相応しいのか。
今更、そこをほじくり返すのってナンセンスじゃない?
だって俺自身が自分の従者にシャーロットを指名しているんだから。
でも、シャーロットの存在に納得いかない奴らが公爵家の中にはいるみたいだ。サンサだけの考えとも思えないし、そこにはきっと父上の意思も入っているんだろう。
皮肉なもんだよな。俺が真っ黒豚公爵の時みたいに誰からも期待されない存在だった時は文句の一つも言われなかったのにさ。こうやってちょっと立派になってしまえはすぐにいちゃもんつけてくる奴らがいるんだから。
「でも、コクトウ様ってあんなに強かったんですね……」
「あいつは特別。サンサが戦場で上げた武功の大半はコクトウのお陰って言っても嘘じゃないし。だけど、ここまで本気でやる奴がいるかよ。ミントちゃんがいなかったら、全治一か月とかだったぞ……」
「そうですね……ミントちゃん、凄かったです」
そう、圧巻だったのは彼女だ。
コクトウの攻撃から彼女に何度助けられたか分からない。彼女がいなかったら、俺はしばらく医務室の中で過ごすことになっていただろう。
あの子は、未来が見えているのか? ってぐらいコクトウの襲撃を察知するのがうまいんだよ。改めてお礼を言いたかったけど、今は俺たちに気を遣ってか部屋の外で待っている。
「……シャーロット。あの子、本当に何者なんだろうね」
今日はコクトウの襲撃に警戒をする余り、あの子と話をする時間もなかった。
明日は彼女と話をしよう。
どうして、俺の従者になりたいのかとか、聞きたいことは山ほどあるんだ。
公爵家は人材の宝庫だと言われている。
年がら年中、俺たちの役に立ちたいって言う若者が国中から集まってくるんだよ。それは剣術や魔法にちょっとした才能がある貴族だけじゃなくて、平民もいる。
うちは、身分に拘らない。完全実力主義だ。今、サンサの周りにいる騎士達だって貴族と平民が半々ぐらいだしな。だけどスパルタ主義の極みみたいな訓練を施すから逃げ出す者だって跡を絶たない。
ミントちゃん。
あの子は自分から公爵家の門を叩くような女の子には到底、見えないんだよなあ。
「よお、デニング。お前、また物騒なことをしているみたいだな。見ろよ、お前の周りだけがらんとしてるぜ?」
そういって俺の目の前に昼飯が乗ったお盆を置いたのは黒いアフロのふざけた先生。この人が食堂にやってくるなんて珍しい。
大体、教師連中は昔の俺みたいに自分の部屋まで食事を届けさせているからな。
ロコモコ先生が俺の前にどっしり座る。
「公爵家に生まれた人間ってのは大変だな? 同情するぜ、デニング。お前の従者の噂聞いたぞ」
「……」
「前から思っていたがな、あの子は戦う者じゃない。俺はどっちかと言えば、サンサ・デニングの考えに賛成なんだが」
「言われなくても、分かってますよ。シャーロットは武闘派じゃない」
「一年生の頃のお前なら、公爵家からの指示なんて無視するだけだっただろ? 何なら公爵家としての立場すら捨ててやるって心境だと思ったんだけどな。今のお前は違うらしい。どんな心境の変化だ?」
確かにそうだ。
昔の俺だったら、シャーロットと離れ離れになるぐらいなら公爵家を捨てていただろう。だけど、あの頃の俺と今の俺はちょっとだけ違う。
「ロコモコ先生、何を言いにきたんですか。シューヤの状況を俺から聞き出そうとしても無駄ですよ。俺は本当に何も知らないですから」
「デニング、その様子じゃお前知らねえんだな」
「何がですか?」
すると、ロコモコ先生が身を乗り出して、俺の耳元で小声で囁いた。
「お前の父親が遠征先で賊に襲われた。相当な重症だって、話だぞ――」
それは、思わずフォークを落とすぐらいの衝撃だった。
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