373豚 俺の部屋がぐっちゃぐちゃ

「学園をサボってたスロウ・デニングが家族を引き連れて戻ってきたってよ! しかも聞いて驚け! なんと、あのサンサ様を引き連れてな! 戦場の黒花様だ!」


 ずっと学園をサボっていた俺が自分の家族を連れて学園に帰ってきた。

 しかも俺みたいな偽物じゃない、本物の公爵家を引き連れて。誰だって一目見たいと思うだろう。この学園じゃ、噂が広まるのは風が飛び散るよりも早いんだ。


「わあ……見ろスロウ。何だか集まって来たぞ」

「当たり前だ。ここは貴族や平民が関係なく詰め込まれた魔法学園だ。サンサ、お前自分がどれだけの有名人なのか分かってないのかよ! ほら、話なら俺の部屋でも出来る。ここじゃなくて、俺の部屋に行こう。落ち着いて話もしたいからな」


 俺たち全員が男子寮の前に入ると見世物状態になってしまう。

 慌てて俺たちは俺の部屋がある男子寮4階に向かうことになったのであった。俺を先頭にズンズン階段を登っていく。


「なあ、スロウ。これが男子寮か。思っていたよりも作りは単純なんだな。はあ、なんだか緊張するなあ。この階はどうなってるんだ?」

 

 なのにサンサの奴、興味津々で階を上るごとにひょっこり廊下へ顔を出すんだ。

 頼むから止めてくれ!


「変なとこ見物してないで早く俺の部屋に行くぞ」

「なぁ、スロウ。この2階にはどんな奴らが住んでるんだ」


 物珍しそうに廊下の向こうを眺めている。

 部屋の一つ一つに誰が住んでいるのか気になっているみたいだけど、本当に勘弁。

 サンサの後ろに続く紅色の外套を着たいかつい男達。あいつらの姿を見て、二階の貴族生徒が騒ぎ出すんだからさ! 


「どうでもいいことに興味を持つなよ! 疑問なら後でいくらでも答えてやるから早く階段を登ってくれ! サンサは目立つんだよ!」

「ちょっと待て、大事なことだろう。お前も大貴族に生まれついた人間としては社交性と言うものをだな。思い出した、この階からは貴族が住んでいるんだろう? ちょっと挨拶でもしようかな。スロウが迷惑を掛けているだろうから」

「——来い」

「あっ」

 

 俺はサンサの手を掴んで、上に引っ張り上げる。

 あーもう! だからサンサと一緒に魔法学園に戻ってくるのがめちゃくちゃ嫌だったんだよ。昔からこういう風に世話焼きなんだ。


「はあ、スロウ。お前は強引な奴だなあ」

「サンサ様! こんなスロウ様、滅多に見れませんよ!」

「なんで楽しんでるのさ……シャーロット」

「だって、スロウ様がサンサ様を引っ張っていく姿なんてとっても久しぶりですから! 激レアです!」

「む。それもそうだな。確かに、とっても久しぶりな気がする。スロウ、お前大きくなったな」

「ああもう、うるさい。やっぱりサンサ、お前は自分で歩いてくれ」


 そんな俺と姉上の様子をシャーロットはなぜか面白そうに見ている。 

 こんな場面を学園生徒に見られたらたまったもんじゃないよ。俺のかっこよくてクールなイメージが壊れてしまうだろ。


「ほう、ここがスロウが住んでいる4階か」


 男子寮の4階、そこは貴族の中でも公爵家や伯爵家といった上位の貴族が住まう階だ。ここから上は王族しかいない。生憎、今のクルッシュ魔法学園に王族はいないから、5階に住んでいる者はいない。


「ここから先は家族の話になる。お前たちはここで待て」

「は!」


 公爵家の騎士達は廊下で待機。

 といっても、そんなに物々しく立つなよ。紅色の外套を着た公爵家の騎士が数人もいると、高級感のある4階廊下が一気に戦場っぽくなってしまう。部屋の中で重要が話し合いが行われるからそれを守る騎士みたいな……。


「す、スロウ様、じゃぁ私も廊下で待ってます」


 急に遠慮するシャーロット。


「なんでだよシャーロットも当然こっちだって!」

「だって、家族水入らずのお話をされるんじゃ」

「シャーロットは俺にとって家族同然だ! それに今からする話は、そこにいるミントの話だ。ミント、君も来るんだ」


 俺はシャーロット、そして姉上であるサンサと従者コクトウ、そしてミント。

 今まで俺はサンサから新しい従者候補について聞くことを出来るだけ避けていた。だけど実際に俺の従者候補である彼女が、夢幻じゃなくて実際に現れてしまったのだから、ちゃんと話を聞かないと失礼だろうさ。

 


「うわぁぁあああああ!」

「す、スロウ様! どうしたんですか!? モンスターでもいましたか!?」

「シャーロット、モンスターの話は暫く無しって言ったよね!?」

「あ、ごめんなさい、スロウ様! ……それで、どうしたんですか? オークでも紛れ込んでいましたか……?」

「何がどうしたら俺の部屋がこんな滅茶苦茶になるんだよ!」


 部屋の中があまりにもの惨状だったからだ。

 まるで台風が過ぎ去ったかのような状態。

 荷物がごちゃごちゃになっていた。いやー確かにサーキスタの大迷宮に向かうにあたって服とかを出しっぱなしにしたけど、ここまで汚してはいなかった筈。


「もしかして、俺のいない間に盗賊でも部屋に入ったのか!? シャーロット、今すぐに寮母に連絡してくれ! 俺の部屋に忍び込むなんて良い度胸だ……」

「わ、分かりましたスロウ様ッ」


 慌ててシャーロットが部屋から出ていこうとするときに、大声があがる。


「こ、ごめんなさい! 私が掃除しようとして、やっちゃいました!」


 ……や、やっちゃった? 何を? それより今のは……。

 俺の視線の先は、今や廊下でサンサの後ろ、小さくなっている彼女。


 俺の姉が用意した従者候補、ミントちゃんだった。


「あー……スロウ。先に言っておくが、ミントはたまにやっちゃうことがあるが、欠点を補うぐらいの長所を持っている。お前が失望する前に、先に言っておく」


 サンサ。それ、全然フォローになってないから。

 


――――――――――――————————

【読者の皆様へお願い】

作品を読んで『面白い予感』と思われた方は、下にある★三つや作品フォロー頂けると嬉しいです。モチベーションアップに繋がって更新早くなります!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る