372豚 新しい従者候補

「私がクルッシュ魔法学園にいることが可笑しいか?」


 ちょっぴり悲し気なサンサの声に、直立不動の上級生達が慌てる。


「め、滅相もありません! サンサ・デニング様!」


 学園で一年間も生活していれば、名前が知らなくても生徒の生活態度とかは分かるものだ。サンサの姿を見て駆け寄って来た先輩たちはどっちかと言うと、普段はだらしがないのに、今は、見たことの無い表情で、うわ、滅茶苦茶背筋真っすぐだなあ!


「もう少し楽にしていいぞ。苦しいだろ」


「ダリスを守るため、毎日鍛えておりますからこれぐらいは全く問題ありません、サンサ様!」 


 その後は集まって来た先輩らによる長い口上が続く。


「サンサ様! クルッシュ魔法学園に滞在中、学園に関して問題がありましたらすぐに私をお呼び下さい! 私の名前はバイデン・アイザック! 旧エーデル領の流れを組む軍属貴族でありまして――」


 よっぽどサンサに名前を憶えて欲しいみたいだな。

 俺は辟易なんだけど、長々しい話を嫌な顔せず受けるサンサも凄い。時折頷き、お前の父親は知っているなんて声を掛けている。


「期待しているぞ、バイデン。私は用があるので、また後でな」

「は! 有難きお言葉であります、サンサ・デニング様!」



 その後もひっきりなしに声を掛けてくる生徒をいなしながら、男子寮に向けて歩く。 

 しかしサンサの対応、凄いな。

 俺以外の公爵家の人間にとっては当たり前なんだろうけど、話しかけてくる生徒に対するサンサへの対応。忘れていたけど、公爵家の名前の重さを思い知ったよ。


「スロウ、お前。もう少し真面目に話を聞いてやれないのか」

 

 ほら、サンサの苦言。来ると思ったよ。


「あれは軍の上にいるサンサ相手だから先輩も畏まってるんであってさ。俺なんか軍属志望の生徒には何とも思われてないって」

「スロウ。確かにお前は公爵家直系としては、外れた道を進んでいる。だが、未来は誰にだって分からない。お前がこの先、軍に入る可能性だってあるだろう」

「ない。絶対にない」

「……お前も今後は公爵家の人間として、相応しい態度をだな」


 その後もくどくどと続くサンサの説教。

 説教が始まると長い、これがサンサの性格でもある。そして俺はサンサの説教を受け流すことがとっても得意なのだ。


「……スロウ様、なんか新鮮ですっ」

「そ、そう? ……なにが?」


 何故かシャーロットにはクスって笑われる。なんでだ。

 お、サンサの説教を受け流していると男子寮が遠くに見えてきた。寮の入り口から出入りをする生徒の姿。中には俺たちの姿を見つけて、目を丸くする者もいた。

 その中、直立不動の女の子の姿がとても目立っている。


「サンサ。もしかしてあの子が――」

「あれが、お前の新しい従者だ。私がお前のために見繕ったんだ。正直、最高の人選だと思っている。お前もすぐに気に入るだろう」

「絶対に無いと思うけどな――」


 その子は男子寮の前に直立不動で立っていた。

 俺たちの登場にあわあわと、声には出さずともかなり緊張しているみたいだ。俺もどうしたらいいんだろ? 君を従者にするつもりはないけどよろしく、とか言えばいいかな。悩んでいると、サンサが一歩だけ前に出て。


「ミント。こいつがスロウだ。挨拶をしろ」


 肩にかかる栗色の髪が風になびいて揺れていた。

 ちびっ子だ。アリシアよりは少し高いか?

 童顔で、年齢は……俺よりも下? 白と緑を基調としたエプロンドレス、近くで見ると全体的にふりふりとした服装を難なく着こなしているのは、本人のほわほわとした雰囲気ゆえだろう。他は、えーっと。

 

「は、は、ははは初めまして、スロウ様! み、み、ミントと申しますッ!」

 

 多分、絶対にドジっ子だ。それだけは間違いないと思ったんだ。



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