369豚 公爵家の騎士

 クルッシュ魔法学園にまでサンサが着いてくる。

 そんなの考えただけで、溜息が百回ぐらい出そうになるって。


 クルッシュ魔法学園の男子生徒も、卒業後は一時的に軍隊に所属するものだって沢山いるんだ。サンサは、騎士国家の軍隊の中で最上位に位置する将軍だぞ?

 はあ、大騒ぎになるだろうな……サンサは人気だから。


「……はいはい、分かったよ。好きにしてくれ」


 だけどサンサの性格はよく知っている。

 俺が嫌だと言っても、サンサは引き下がらないだろう。

 サンサだけじゃなくて、俺の家族全員そう。我が強いんだよ。止めろと言われて、素直に引き下がるような可愛い人はデニングにはいないのだ。




 騎士国家の領内に入り、クルッシュ魔法学園に向かっている。

 さすがに公爵家の領内に入ってしまうと、俺たちの存在は嫌って程目立ってしまう。街道の脇に用意された休憩所でも、沢山の人に話しかけられた。


「おお! そのお姿は、まさかあの高名なサンサ・デニング様では!?」


 もっぱら、サンサ・デニングと繋がりを持ちたい商人連中だったけど。


「ふはは、若様はもっと嫌がると思っていましたが、意外と素直でしたなあ」

「俺が嫌だって言っても、サンサは絶対クルッシュ魔法学園にくるだろ……」

「サンサ様のことをよくご存じですな! さすがサンサ様の弟君!」

「当たり前だろ、兄弟なんだから……」


 こうして、僧衣を羽織るコクトウとも話す機会が増えた。

 サンサを支える専属従者、これまで面と向かって話すことが無かったから新鮮だ。大人気アニメ『シューヤ・マリオネット』の中では戦うシーンは殆ど無かったけど、こいつの実力がやばいって噂は至る所から聞こえてくる。


「まあ、サンサは俺がクルッシュ魔法学園に行くって決まった時も、羨ましいって言ってたことがあるし、単純にどんな場所か興味あるんだろ」

「その通り! スロウ様の魔法学園行きが決まった時、サンサ様は影で若のことを大層、羨ましがっておりましたぞ!? サンサ様に青春なんてものはありませんでしたからなあ」

「それが公爵家デニングに生まれた者の生き方だろ、コクトウーー」

 



 さて、サンサ・デニング。その名前は他国にも知れ渡っている。

 現に俺たちが数日前まで滞在していたサーキスタの冒険者支部では怖いもの知らずの高位冒険者達がサンサに腕試しの挑戦を行い、ボッコボコにされていた。 

 あのヨロズとか、本当に強い高位冒険者はサンサに喧嘩を売るなんて馬鹿な真似してなかったから名前を売りたいB級の冒険者とかだけど、それでもB級冒険者ぐらいだったらサンサの相手にはならない。


「——若! あの……折角だし、この場で若と一戦交えたいのですが!」

 

 俺とコクトウが喋っていた時に、やってきたのは紅色の外套を羽織る公爵家の騎士。サンサから食事の度に好き嫌いするなと怒られているデニーロだ。

  

「……いいよ。俺も、サンサの部下がどれぐらいのものか興味があるし」

「さっすが! 若! じゃあ、サンサ様の目が無いあっちのほうで……」

 

 おいデニーロ。そんなこと言うなって。

 そんなこと言ったら地獄耳のサンサが……あーあ、ほら来た。


「スロウッ! デニーロと一戦交えるだと!? 勝手なことをするな!」

「そうは言ってもサンサ。ここにいる全員、興味があるみたいだけど? それに勝負を持ちかけてきたのは俺じゃない」


 ゾロゾロと集まってくる公爵家の騎士達。

 この場にサンサがサーキスタ大迷宮に連れて行った直属の部下たちばかりだ当然、腕には自信のある者ばかりだろう。サンサも騎士達の盛り上がりを見て、止めるのを諦める。多少の娯楽を与えるのも、上官としての務めだもんな。


 俺とデニーロは距離を取って、対峙する。その時になって、ようやくサンサに話しかけていた商人たちも俺が誰なのか気づいたようだった。  


「噂がどれだけのものか、行きますよ若ッ! 炎の刃ブレイド


 公爵家デニングの騎士の戦い方は近接戦闘が主体。


 その戦い方は遠距離攻撃を基本とする魔法使いの普通とは真逆だ。デニーロが杖の先に炎の刃ブレイドを迸せる。


 ふうん。シューヤとは比べ物にならない、練られた魔法だ。あれぐらいの練度になると敵から魔法を受けたって、あの炎の刃ブレイドで受け止めることが出来る。

 シューヤにはサーキスタ大迷宮の中で、あれぐらいまで成長してほしかったんだけど……まあ無理はいうまい。シューヤにはシューヤのペースがある。


「何考え事してるんですかッ!」

「ぶひ? まあ、余裕だから」

「言いましたね!? それじゃあ俺も本気で! 炎と風の鋭い刃フレイムブレイドッ!」

「……え? おい、待てよ! 遊びじゃないのか」


 さすがにあの炎を見たら、顔色を変えざるを得ないって! 

 デニーロの背丈の倍ぐらいまで炎が燃え盛っている、本気だな。遊びじゃないのかよ! 直線上にいる敵ものとも葬り去る力だぞあれ。


「若と戦える機会なんて有りませんから!」


 デニーロが刃を振るった直後、あいつの身体にさらなる風が纏わりつく。


「あのスロウ・デニングと戦えるんだ——遊びにしたら勿体ないでしょうッ!」


 そうして、デニーロは一気に俺との距離をつめた。


――――――――――――————————

クルッシュ魔法学園帰還まで一話挟みます。(騎士と戦いたかった)

【新作情報】

霊能力者が異世界召喚される新作を書いてみました。

主人公最強の呪術ものです。

https://kakuyomu.jp/works/1177354054895103171


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