370豚 騎士との戦い、そしてクルッシュ魔法学園への帰還
デニーロが魔法の刃を思いっきり振るう。
炎の刃から、炎と風の刃へ威力を高めた力。
風によって勢いを増した炎が俺に迫ってくる。
が、問題ない。炎と相性の良い水の結界で受け止める。
「中々の威力じゃんか、デニーロ! お前、こんなに強い魔法打てたっけ!?」
「さすがですねえスロウの若様ッ! 微塵も動揺しないとは!」
嘘だよ。内心、メッチャ動揺したって。
ただの遊びだと思ったのに、本気でやる奴がいるかよ! それでも胸が高鳴る。やっぱり腕の有る騎士との戦いは心が躍る。
サーキスタ大迷宮の中層で出会った理不尽なモンスターとは違う。
純粋に高められた武力、これはいいもんだ。
「では、もう一度! 胸を借りるつもりで行きますよ! 風よ――」
――早ッ。
デニーロが一歩で俺たちの距離を詰めてくる。
さすが公爵家の騎士、それもサンサに直接鍛えられているだけあるな。風の魔法で追い風を生み出し、風の流れに乗ったみたいだ。
観衆からはおおーって歓声が飛ぶ。
魔法に明るくない商人でも、デニーロがどれだけの使い手か理解したんだろう。
「デニーロ! 躱されたぞ! お前お得意の一撃だったのになあ!」
「折角の機会だ、デニーロ! 色々と試してみろよ!」
公爵家の騎士からもヤジが飛ぶ。
ヤジの内容も高度だ。クルッシュ魔法学園の学生とは違う。ちゃんとデニーロが何をしたか騎士達は正確に把握しているな。
俺はデニーロが生み出した炎の刃をいなしながら、後ろに下がる。
杖を剣に見立てて戦う技術、刃は魔法使いの力量によってどこまでも伸びる。見極めが難しい。
「デニーロ! 若様に自分の魔法を利用されちまったなあ!」
「くっそ!」
デニーロが生み出した風に乗って、俺も移動する。
俺は利用できるものは利用するスタイルなんだよ。
「……へへ」
その時、僅かに嫌な予感。
舌打ちをしながらデニーロが微かに笑った気がしたんだ。
空を見上げる。晴天の下に何十本もの氷柱。先端が鋭利に尖っていて、あれが刺さったら痛そうだな!
というか、氷柱は俺が下がる場所を正確に見据えていた。
うそだろ! 俺が誘われたのか!
「堕ちろ、
「やば!」
間一髪でその場を回避。冷たい冷気が首筋を撫でる。さっきまで俺がいた場所を見れば、氷柱がぶっ刺さっていて、ぞわっとした。
「一発も当たらないなんて……さすがは若様です」
「いやいや、当たったら死ぬだろ!」
「公爵家の方はこれぐらいじゃ死にませんよ」
駄目だ、デニーロもサンサの部隊に入ってすっかり染め上げられている。
サンサの方をちらりと見ると、悔し気に親指を噛んでいた。あ、珍しい。あれはサンサが本気で悔しい時にやる癖だ。もしかして、サンサが教えた技か?
「スロウ様ー! 頑張って下さい! 負けないでっ!」
野太い騎士達のヤジの中で、シャーロットの声も聞こえる。
元気百倍、やる気もみなぎって来た。
よーし。じゃあ、そろそろ決めるか。
デニーロが俺と再び距離を取る。今度は戦い方を変えるみたいだ。
へえ、これから使う魔法は……火と水の二重魔法か。
残念だけどデニーロ、俺の目にはお前が何をしたいのか映っているぜ。
「デニーロ! 魔法を止めろッ! スロウの魔法が来るぞ!」
慌てたサンサの声。だけど、もう遅い。
——俺は既に魔法を放っている。
身体強化で有名な光の魔法だけど、闇の魔法と組み合わせるとこんなことも出来るんだぜ。
「……」
デニーロが虚ろな顔で、ぼけっと突っ立っている。
これまでのびしっとした顔はどこにもない。
「ぶひぶひ」
俺は余裕の表情で一歩一歩歩いていく。
「チェックメイト」
杖で、デニーロの身体をとんと押す。
するとあいつは目を覚ました。
「……え?」
「光と闇の二重魔法、
「いつの間に……参りました」
二重魔法のように高度な魔法を練りあがる瞬間は、誰だって意識が魔法の構築に向けかうもの。失敗したら、昔ビジョン・グレイトロードが二重魔法を失敗した時のように魔法が暴発してしまうんだ。
だから、二重魔法を使う時はチャンスでもある。
もっとも、サンサには気付かれてしまったみたいだけど。
「やっぱり、スロウの若様は凄えなあ! あのデニーロが手も足も出ないとは! 恐れ入った! さすがはあのスロウ様だ!」
その日の夕食は、何故か大盛だった。
デニーロを圧倒したことで、公爵家の騎士達からはさらに仲良くなれた気がした。やっぱり武闘派連中と仲良くするには、競い合うのが一番だよ。
あれから何人かの騎士の相手をしたけど、負けることはなかった。
途中からは絶対、サンサの入れ知恵を受けただろって騎士の魔法もあったけど、誰からも一発も喰らわずに済んだしな。
そのたびにサンサが悔しそうな顔をして、少しだけストレス解消だ。
「おい、スロウ! あれがクルッシュ魔法学園か……!」
「サンサ様! 危ないですぞ! それにみっともない!」
窓の外に身を乗り出して、サンサが大きく声を上げる。
俺にとっては見慣れた光景だけど、サンサの奴は随分と新鮮に見えるようだ。
「コクトウ、これが興奮せずにはいられるか! クルッシュ魔法学園だぞ! 軍に入ってくる者達がどのような環境で学んでいるのか、ずっと興味があったんだ!」
こうして、俺たちは公爵家直系の有名人、サンサ・デニング、そして数名の
さて——俺の従者候補って奴はどんな人なのか。
正直楽しみな俺であった。
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【新作情報】
豚9巻が4月17日の本日発売になります!
表紙が滅茶苦茶素晴らしいので、宜しくお願いいたします。
https://fantasiabunko.jp/sp/201702butakosyaku/
(コロナが大変な時期なので、ファンタジア文庫HPなどで……)
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