360豚 シャーロットとの合流。後編③
中層からの脱出劇。
第一ラウンドは、アリシア達を上層へ逃がすことだった。
自分の身を犠牲にすることで、何とかそれは成功することができた。守るべき人がいると戦いづらいから、これはこれで悪くない選択肢だったんだと思う。
今のシューヤがいても邪魔なだけだし、アリシアは戦力外だ。
俺たちの中でまともに戦えるのはS級冒険者のヨロズと俺だけ。そして迷宮内での行動はヨロズの方が俺よりも遥かに知識と経験も上。
だから、アリシアやシューヤを逃がすのは、ヨロズが適任だった。
「あ゛、あ゛たんねえ゛! す、ステ゛イン様! おで゛の攻撃が゛、あた、あたんねえんだ゛! あい゛つ、ちっちぇえから!」
第二ラウンドの目的は、生き続けることだ。
この中層で死に物狂いで生き続ける。どれだけ頑張ればいいのか分からないけれど、生き続ければ、助けは来る。そう信じて、あいつらを上層へ送り出した。
数分ここで粘ってあいつらを追いかける? そんな考え、最初から無いよ。
「す、ステ゛イン様! あい゛つ゛、うま゛く、躱しや゛が゛る!」
砦から脱出する直前にヨロズは俺だけに言った。
俺がこの中層で生き続ければ、助けを呼んでくるって。
サーキスタ大迷宮の上層にはいつだって多数のA級冒険者を始めとする高位冒険者パーティが潜っている。彼らにS級冒険者である旨を明かして協力を取り付ける。
S級冒険者にはそれだけの権威と力があるとヨロズは言っていた。
別にあいつの言葉を全部信じるわけじゃないけど、そこには一定の信頼は置いていいように思えた。実際にS級冒険者のあいつを救うために、各国が救援隊を送り込んでいるわけだし、それにあいつは森人だ。
あの長い耳と、やつれていても分かる人外の美貌。
森で生きる民は、約束を何よりも大事にする。そういう生き方をしているから、精霊は人間よりも森人に、大きな力を貸している。
「……馬鹿だな、ダンボ。お前の力は、ポラリスの雷撃棒だろ……? おい、誰か、ダンボに雷撃棒を与えてやれ……」
「す、ステ゛イン様! そうだ゛った! あああ゛! 貸せええ゛え゛え゛!」
まずい。オーガが運んできたでっかい棍棒を見て、状況を理解。
あれは、ポラリスの雷撃棒。振り回す度に、電撃を巻き散らかすマジックアイテム。古に生きた巨人の王様が振るっていたとされる棍棒だ。
あんなものをあいつに持たれたら一貫の終わり。だから。
「
狙いを定める。古の巨人、愉快な踊りをさせて、十分に身体の構造は理解した。
古の巨人には弱点がある。あいつは巨大な身体を持つ割に、心臓は小さい。ちょっとした衝撃でも、動きを止める。もう位置は把握した。
「——
俺の目の前で、棍棒に手を伸ばした古の巨人がゆっくりと倒れ込んでいく。
ずどんと、大地を震わせる振動と共に巨体が沈む。あいつが倒れたのを確認して、ポラリスの雷撃棒を運んでいたオーガの連中が雷撃棒をそっと地面に降ろす。力自慢のオーガだけで、自分たちがあれを扱える腕力が無いことは分かっているんだろう。
「簒奪のステイン。お前がここの王様だろ?」
「……」
「一つ提案なんだけどさ、俺と一対一で決着をつけないか?」
さっきまではあの巨体の肩に乗っていたスライム。
簒奪のステインは相変わらず、スライムらしくぷるぷると震えたまま。
自慢のマジックアイテムを古の巨人に分け与えているんだから腹心の部下だったんだろう。表情が分からないのが残念だよ。
「あいつを倒した奴に、おいらのアイテム、好きなのをやる。早い者勝ちだ……」
雪崩のように、モンスターが襲ってきた。
「ステイン様の武器は、俺のものだ!」
「早い者勝ちだ! あいつを倒せば、のし上がれるぞ――!!!!」
まあ当然。簒奪のステインが、一対一なんて選ぶわけないよな。
あのスライムがそんな勇気あるモンスターじゃないことは分かってたけど、少し残念だよ。
「俺にやらせろ! 邪魔だ、オーガ風情が!」
「てめえ! 俺をぶん殴りやがったな、コボルト風情が!」
後悔するとか、そんな感情は湧いてこない。
考えた瞬間に、俺はこいつらに負けるだろう。
だから、今はただ生き続けることを考える。
「お前ら、ちょっとは落ち着かねえか! 同士打ちになってるぞ!」
砦の中に入れることも考えたが、それは最後の手段だ。
あそこに逃げたら、俺はあのS級冒険者のヨロズと同じように手詰まりになってしまう。俺自身の価値はヨロズ程ないから、各国が救援隊を差し向けるなんてことは無いだろうし、ヨロズのようにモンスターの中に協力者を作れそうにもない。
「——お゛、おま゛ええ゛え゛、! い゛たかった゛ぞおお゛!」
あの巨体がゆっくりと起き上がる。
今度はちゃんとポラリスの雷撃棒を持って、俺に向かって歩いている。いやいやいや、ちょっと待ってくれ。復活、早すぎじゃない?
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