361豚 シャーロットとの合流。後編④

「ああ゛あああああ゛ああああ゛ああ!」


 古の巨人。あいつが持つ棍棒が振り落とされた先にいるモンスターたち。

 誰もが絶叫を上げて黒焦げになっている。

 ポラリスの雷撃棒、古に生きた巨人の王様が振るっていた棍棒。


 あいつは、仲間であろうモンスター共々斧を振るい片付けている。

 いや、あの巨人に仲間なんて感覚は絶対なさそうだ。

 あいつの足元で戦うモンスターを邪魔そうに、蹴飛ばしたりしてるもんな。

 ポラリスの雷撃棒、その風圧だけでオーガでさえ耐えきれず吹き飛んで行く。

 近くにいた俺も、風圧で全身が持っていかれそうになる。あんなものが直撃したら一貫の終わりだな。


 モンスターの向こう側に、この中層のボスである簒奪のステインが見えている。


「殺せ゛、殺せ゛、殺せ゛、殺せ゛!」


 ステインの周りにいるモンスター達が、大地を踏み鳴らす。


「殺せ゛、殺せ゛、殺せ゛、殺せ゛ッ!」


 振動で大地が揺れる。ああやって己の士気を高揚させているのか。

 っていうかまだまだ、あんなにいるのかよ……。

 俺の周りには百体にも届こうかってモンスターがいるんだ。俺が倒したモンスターもいるし、同士討ちや、あの巨人に倒されたものもいる。

 雑魚はいない。一体でも、骨が折れるモンスター。今、すれ違い様にもう一体を仕留めた。息をつく暇は、当然無い。


「——捕まえたぜ、魔法使い」


「ッ」


 目に見えない俊足で駆け寄ってきた何者か、そいつの拳が腹に当たった。

 空気を一気に吐き出して、口からは血が飛び出した。吐血。痛みで頭が真っ白になった。今のはどいつだ。オーガじゃない。悪魔の猟犬でも、見逃していたか!?


「よう。お前が、仲間思いの魔法使いか」

「……龍人。初めて見たな」 

「そうなのか? まあ、あんまり人間の前には出ないからな」


 人の姿でありながら、龍が如くの力を内包する存在。

 額に生えた角に人を凌駕する膨大な魔力を蓄え、鱗の生えた尻尾を三つ目の腕のように扱うという。

 その性格は非常に知的で、人間を超えた知能を持つというが。

 ……参ったな、勘弁してくれよ。


「なあ、ステイン! 俺があいつを倒したら、今度は何をくれるんだ! もう俺はお前から欲しいものはないんだが!」


 そいつは美的感覚が滅茶苦茶だった。

 髪飾りや花飾り、アクセサリーを所かまわず装着している。

 けれど、あれは全部マジックアイテムだ。肉体に力を、速さを、付与している。俺に一撃を加えたあの尋常ではない動きが、理解させる。


「ライゼル……君が、そいつを倒したら、バクアニーゼの爆発剣をあげるよ……欲しがっていただろう……?」


「おー! そりゃあいい! やる気が出てきたぜ!」


 バクアニーゼの爆発剣。

 また伝説にもなっている魔剣の名前を聞いて、身が引き締まる。


「よう! 魔法使いにとって、俺は天敵だよな!?」

「黙れ……ていうか龍人がスライムの下につくって……プライドは無いのかよ」

「プライド!? ははは、面白いことを言うじゃん! そりゃ!」


 魔法使いの天敵は武人だ。それはいつの時代も変わらない。

 俺も素早い相手は大嫌いだ。龍人の登場によって流れが変わる。今までのモンスターは、まだ可愛げがあった。でも、あいつは――格が違う。

 簒奪のステインと呼ばれしスライム。

 あいつの部下の中でも、幹部らしきモンスターが集まってきているようだった。


「あらよっと」


 風圧。蹴りが来る。咄嗟に、顔を防御。


「ちげえ。こっちだよ」


 直撃。だ。くそったれ。

 そのまま、吹っ飛ばされ、俺が潰した階段の入り口。瓦礫の山へ叩き込まれる。背中に鋭利な刃物のように尖った瓦礫が刺さった。痛みに歯を食いしばる。


「お゛おお゛おお゛! ラ゛イ゛ゼル゛、俺の゛獲物だ゛ああ゛あ゛ああ゛ああ!」

 

「そりゃあないぜ、ダンボ。ステインも言ってただろ、早い者勝ちだって」


 ……まずいな。持たないぞ、これ。



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