359豚 シャーロットとの合流。後編②

 サーキスタ大迷宮への旅。

 上手くいれば、間違いなくダリスの歴史に名前を残すだろうって、どこか心の中で思っていたよ。大迷宮の中層に眠る二属の杖ダブルワンド。モンスターに奪われた騎士国家の大切な遺物、取り返すことは向こう数百年は不可能と言われていた。

 

 サーキスタ大迷宮の中層まで潜って、何の問題も起きずに無事に地上へ帰れるなんて全く思っていなかった。

 けれど同時に、何とかなるだろうとも考えていたんだ。

 何故なら、俺の傍には火の大精霊の存在を認識したシューヤがいるから。


 あいつは腐ってもアニメ版の主人公なんだ。

 覚醒すれば、この世界で最強の一人に数えられるとんでもない野郎なんだぜ。


 確かに俺が未来を変えたから、ここまでシューヤの力が大きく強化されるような覚醒イベントは全然なかった。でも、ここまであいつがサーキスタ大迷宮の中で何の戦果も挙げられないのは予想外だったよ。


 正直、もう少しは役に立ってくれると思ったんだけどな。


「……ふうー。これであいつらは逃げられたよな」


 独り言を呟きながら、ぱっぱっと服についた土埃を払う。

 アリシアやシューヤが階段を上って数分、あれから一匹もモンスターを通すことは無かった。

 アリシアの目的だったS級冒険者も、シューヤが手に入れなければならない二属の杖ダブルワンドも、両方を手に入れて、あいつらは上層に帰っていった。

 二属の杖ダブルワンドがあれば、騎士国家の女王陛下はどれだけシューヤが情けなくても、シューヤの功績を認めざるを得ないだろう。

 


「……おいらは驚きだよ。自ら逃げ道を潰すなんて」


 さて、現実に戻るとするか。

 俺の目の前には衝撃的なモンスターがいる。身体中をぐるぐると巨大な鎖に縛られたとんでもないサイズの巨人だ。あれは古の巨人と呼ばれているモンスター。 

 周りの地面に開いた大穴は、全てあいつが振り下ろされた拳によるものだ。


 そして、俺はそいつの肩に乗るスライムから見下ろされていた。


「……人間。おまえが何を考えているのか、おいらには分からないな」


「仲間を上層へ逃がすことが理解出来ないのか、簒奪のステイン」


 全ては無意識だった。

 アリシアやシューヤらが上っていった階段。それを背にして、モンスターを倒しているときに、気付いてしまったんだよな。あの階段の硬い天井を崩してしまえば、もうこの上層へ続く階段は使い物にならないってさ。


「おいらには理解できないな……おまえ、どうして階段を破壊した。あれが無くなったら……おいらたちも困るけど、お前はもっと困るだろう……。おいら達から逃げることが出来なくなったんだから……」


 巨人の肩で、スライムはプルプルと震え続ける。

 形の持たない、生物として最も単純な形。

 弱そうに見えるけど、あいつが弱いはずはないのだ。あのぷにぷにと触り心地の良さそうなあいつが、このサーキスタ大迷宮を構成する中層の一つを支配するモンスターだ。

 

「お前は冒険者って感じもしないし……何を考えているかわからない……でも、お前のせいであれを取り返すことがとても難しくなったことは、わかる……」


 あいつが乗っている古の巨人の背後には大勢のモンスター。

 ゴリラを大きくさせたバックルだけじゃない。普通の巨人族も数体。首無し鎧が剣を研いでいて、飛び回る悪魔もいる。

 材質は最高の硬度を誇るアダマンカイトゴーレムも、身体が炎で出来たサラマンダーの姿も見えた。

 一般的な迷宮だと、最深部にいるようなモンスターが次々とやってくる。


「おいらの大事な杖が盗まれた…………おいらが集めた宝物の中でも、二属の杖ダブルワンドは一番お気に入りだったのに……」


 二属の杖ダブルワンド

 光の水の大精霊同士が生み出した杖で、今はもう何の力も持たない骨董品。

 でも、とてつもない価値を持っていて、あれを持ち帰ったらダリスとサーキスタの上層部はひっくり返るだろう。


「あれを奪うのに苦労したんだ……嫌な思い出だ……騎士国家ダリスの奴らと、戦った……あいつら強かったな……また、あいつらの手に戻ったら取り返せない……決めた……」


 これでいい。微塵も後悔はない。

 自分で階段の天井を壊して、上層に続く道を埋めたんだ。

 衝動邸な行動だったのは否定しないけど、そうまでしないと、アリシア達はあのモンスターに追い付かれていただろう。


「お前を殺して、瓦礫をどかしてあいつらを追いかけることにするよ……」


 スライムが古の巨人の肩から飛び降りて、指示を出す。

 風切り音と共に、暴風のような拳が俺に向かって放たれた。



―――――――――――————————

火の大精霊「まさかシューヤ。お前は聞こえていなかったのか。あの小僧は、自ら階段を崩壊させている。そこの女は気付いているだろうが、追ってくることも出来ないだろう」

シューヤ「…………そんな」


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