【シューヤ視点】358豚 シャーロットとの合流。後編①
シューヤは、サーキスタ大迷宮に入ってから息苦しさを感じていた。
それは中層に、地下深くへ潜るほどに大きくなる。当初は危険極まるサーキスタ大迷宮で火の大精霊を制御してやろうと息巻いていた。けれど、思わず帰りたいなんて弱音を溢すぐらい弱気になってしまったのは、この息苦しさが原因だと勝手に考えている。
シューヤ・ニュケルンは、薄々感づいていた。
火の大精霊はこのサーキスタ大迷宮で暴れたいと願っているのだ。その願いの強さに、シューヤは喰われ続けている。
シューヤは自分自身が失われているかのような不思議な感覚を味わっていた。現れるモンスターが強くなるほど、火の大精霊の存在感が強まっている。
だから、早く平和な地上へと帰りたかった。
「——駆け上がりなさいッ! あの子が保っているうちに上層に帰るわよッ!」
「あいつがッ、デニングが、潰された!」
「体格差があるから、そう見えただけよ! それよりあの子を信じなさい! あの子は、赤髪くん、君の国の龍殺し、英雄なんでしょ!」
シューヤは分からない。
それでもS級冒険者ヨロズの声を聴くと、身体の中から不思議と力が沸き上がる。
だから、シューヤは力いっぱい走って、ヨロズとアリシアの、二人の背中を追いかけるんだ。
もう階段を半分は上がっただろうか。
『見損なったぞ! シューヤ! お主は、何のために、この地へやってきたのだ! 戦うためではないのか! 儂と、お前の身体を掛けて戦うためにーー』
「うるせえ! 分かってるんだよ! 黙ってろよ!」
「なに! 赤髪くん! 名前も聞いてなかったけど、どうしたの!? 思春期特有のやつ!?」
「あ、いえ! ……何でもないです。俺は内なる自分と会話していたっていうか……」
「内なる自分!? ふふふ、良いわね最高ッ! 君、面白いこと言うわね! 気に入ったわ! こんな死地でそんなふざけたこと言えるなんて大したタマよ! さすがアリシア様のお友達ね!」
『理解しているのかシューヤ! お前たちは、あの小僧に全てを押し付けたのだぞ! こんな情けない男が儂と命を共にする相手だとは、儂は相手を見誤ったか!』
分かっている。
頭が割れるようだ。分かっている。
シューヤ・ニュケルンらは、スロウ・デニングを見捨てたのだ。
砦から出て橋に繋がる門には、砦に入る際にはいなかったモンスターが待ち構えていた。アリシアを追いかけて砦に入った時には黄金の鎧を着込んだコボルトがいたが、出る時にいたのは古の巨人だ。
それも二体。奴らは全身鎧を着て姿を隠したシューヤたちに、鎧を脱ぐように指示した。
そこからが戦いの始まりだった。
間髪入れずに放たれた攻撃。
S級冒険者であるヨロズとスロウ・デニングの魔法が二体の古の巨人は直撃、奴らは面食らったようにシューヤの目には見えた。
だから、その隙に全速力で上層に繋がる階段に走った。すぐに砦全体、中層全体に轟音が響きわたる。
言葉が分からなくても、理解出来た。
砦の中から人間が逃げ出したと騒ぎ始めたのだ。
『シューヤ! お主は生きる価値すら無い臆病者だ! この地は儂とお主のために与えられた戦場だったのだ!』
分かっている。
シューヤ・ニュケルンは、誰よりも理解している。
この地はダリスの女王陛下から、そしてスロウ・デニングから与えられた試練の場。
身体の中に火の大精霊を宿す異形の身体。人間の国で、故郷のダリスでこれまで通りに生きていくのは不可能である。
それでも、シューヤは与えらえたのだ。
この地で力を示せば今まで通り生きてもいいんだと、可能性を与えられた。
長い歴史の中で、火の大精霊を宿した人間には決して与えられなかった救いを。
「たった1秒でも時間を食えばその分だけあの子の寿命が減るわ!」
それなのに階段の下に、恐ろしい中層に、一人だけ残してきた。残してしまった。
「だから、走りなさい! あの子の思いを無駄にしないためにも!」
あれだけの数のモンスターが砦から逃げようとするシューヤ達を迫っていたのに、今の状況はどうだ。
奴らの方が遥かに足も早いのに、階段の下からモンスターが登ってくる気配もない。
全ては、下に残ったスロウ・デニングが全てのモンスターを下で引き留めているからだ。
「赤髪! 背後を振り向かない! それにクヨクヨしない! あんた、男の子でしょ! アリシア様を見習いなさい!」
叱咤。ヨロズの声には魔法が宿っている。今にも挫けそうなシューヤの精神を辛うじて保っていた。
「もう少しよ! 上層に辿り着いたら、私の魔法が完成するまで少しだけ休憩していいわ!」
そして上層に辿り着く。
中層と同じく光なんてものはない。それでもシューヤは中層から逃げ出せた、それだけの事実にほっとしていた。
眼前に岩場がどこまでも続いている。シューヤらが登ってきた階段の下、未だモンスターが上がってくる気配はない。
「何の保険も無く、中層に向かったわけじゃない! あの子に時間稼ぎをお願いしたのはこのためよ!」
ヨロズが何かを小声で詠唱している。
シューヤには、聞いたこともない言語。ヨロズは長杖で地面を叩き、反応しているのは大地だった。
大地から、魔法陣が浮かび上がる。驚くべきは魔法陣が刻まれた範囲だ。シューヤらが踏み締めている地面が、岩場が、刻まれた緑色の線を幾重にも重ならせ、震えている。
「アリシア……これって……」
「ご、ゴーレムよ。ヨロズは、ゴーレム造りの天才なの。私も小さい時は、ヨロズに色々なゴーレムを作ってもらったわ」
「あれがゴーレム!?」
大地が盛り上がり、硬い岩石から構築されたのは四足歩行の岩で出来た生き物だ。
当然、生きてはいないが、まるで生物かのように滑らかに動いている。素材は岩石、だけどこんなことってあり得るのか。
岩石で出来た狼が、シューヤと同じ身の丈もありそうな狼を三体目の前にして、シューヤは目を瞬いた。
こんなにも力強いゴーレムを、シューヤもアリシアも見たことが無かった。
「なにをぼけっとしてるの! 乗りなさいってば! まずはアリシア様を連れ戻しにきたっていうサンサ・デニングと合流するわよ!」
その言葉に反応したのは、アリシアだった。
「ダメよ、ヨロズ! スロウは、お姉さんに助けられることを望んでない!」
しかし、ヨロズは颯爽と岩石の狼に乗り込み、シューヤとアリシアの二人を見下ろす。
「サンサ・デニングの側にはあのコクトウがいるでしょ! コクトウは北方でドストル帝国の軍と渡り合った
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火の大精霊「やはり身体が儂が貰う」
シューヤ「…………」
※次話からスロウ視点です
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