357豚 シャーロットとの合流。前編Last
砦の全体像を把握して、ヨロズの隠れ跡に戻る。
帰り道にヨロズがこれまでの長い間、どうやってサーキスタ大迷宮の中層で生き抜いてきたかを教えてくれた。
「信じられないでしょうけど、中層のモンスターに協力者がいたのよ。この地獄から抜け出したいってモンスターがね。武者修行中らしいオークキングとサイクロプスのコンビよ」
オークキングにサイクロプス。
二体のモンスターが砦の状態を逐一報告してくれたり、食料や隠れ家を提供してくれるから、ヨロズは何とかこの場所で生き延びていたしい。
にわかには信じられない話だ。モンスターが人間に協力するだって?
「この中層は、人間世界で言うところの軍隊みたいなものよ。一度、スライムの配下に組み込まれたら逃げ出すことは難しいわ」
ヨロズに協力しているオークキングにサイクロプスは実力を上げるため中層に潜ったらしい。だけど、光も届かない地下生活に辟易し、何とか地上に戻れないか色々画策していたんだとか。
オークキングにサイクロプスもS級冒険者のヨロズが大暴れする機会に乗じて、地上へ逃げ出したいらしい。ていうか今アリシア達が隠れている隠れ家もオークキングとサイクロプスの根倉のようだ。
「さっきも、私に合図を送ってくれていたわ。今が好機だってね……ほら、今よ。私があそこにいるオーガの目を
息を潜めながら、何度もヨロズの指示に従い、移動する。
「少し気になることがあるんだけど。あの赤髪の子供、何者?」
「ただの同行者だけど」
「ただの同行者がサーキスタ大迷宮までついてくる? 馬鹿なことを言わないで。あの子から、可笑しな気を感じるのよ。邪気とも、聖気とも言い難い……近くにいたら、鳥肌が立ちそうになる」
ヨロズが感じているのは、火の大精霊さんの存在かな。
この大迷宮の中で活躍して、火の大精霊の力を制御するとかシューヤが大口を叩いていたのに、全然戦う気配を見せないから火の大精霊さんが怒っているんだろう。
「これまで一緒にいた君たちが、違和感を感じていないならいいんだけど……」
凶悪なモンスターばかりのサーキスタ大迷宮。
ここは火の大精霊さんにとって力を振るえる絶好の場所。
なのに宿主であるシューヤがあれだけビビってるこの状況。火の大精霊さん的には、激怒案件だろう。
俺たちが地上に戻るまで大精霊さんが大人しくしてくれるといいけどな。
ヨロズはそんな大精霊さんの気配を敏感に感じ取っているだろう。
「それより、俺はあんたのほうが心配だよ。地上に出るまでに死なないでくれよ? その左上、使い物にならないだろ?」
「心配してくれるのは嬉しいけど……坊やたちとは経験が違うわ」
S級冒険者のヨロズ、その名前も偽名である可能性が高いし、素性も不明……それでも、彼女が極めて質の高い魔法使いであることは疑いようがなかった。
そして今のところ、俺たちの心強い味方であることも。
隠れ家に帰ってくると、アリシアが怒っていた。
仁王立ちで腕を組んでいる。
「遅い!」
俺とヨロズが外に出てから帰ってくるまでは、少しは眠っていいって伝えたんだけど……一睡もせずに俺たちを待っていたらしい。
机の上。ヨロズが残していった食料を欠片も食べた形跡もない。
「シューヤと話し合ったわ。ヨロズ、やっぱりさっきの作戦は中止に――」
「アリシア様、大丈夫。彼は危険性を誰よりも理解している上で、納得している。少なくともアリシア様、貴方が口を出す問題じゃないわ」
「納得って……本気なの、スロウ…」
頷いて、二人が手をつけなかったビスケットに手をつける。
口の中に放り込んで咀嚼する。久しく味わっていなかった甘未に頭が痺れた。
二人が俺を心配してくれる気持ちは嬉しいけど必要ない。上層にもうシャーロットが着ているんだ。少しだって、危険な目には合わせたくない。
「じゃ、じゃあ……少しでも、身体を休めてから脱出するのよね?」
「アリシア様。協力関係にあるモンスターから情報が入ったの。スライムが古の巨人を配置させて眠りについた。これまで巨人が動き出してから大人しくしていたことが功を奏したってわけね。スライムは、このタイミングで私が脱出することは無いだろうって安心している」
「
古の巨人と聞いて、シューヤが口をあんぐり。
「古の巨人が配置について、つまりどういうこと?」
「その質問に答える前に、アリシア様。ちょっといいかしら。私もこの辺りで準備しないといけないことが――
彼女は身に着けていた緑色の腕輪を取り外し、地面に落とす。腕輪は地面に落ちると、即座にアリシアの身長ぐらいの大きさもある長杖へ変化。
それを見るのは、俺は二度目だった。
迷宮都市でS級冒険者の一人。
S級冒険者に至った者には、冒険者ギルドから
長い緑色の長髪を揺らし、彼女は長杖へと変化したそれで地面をとんとん叩く。
「——全属性の魔法耐性、付与」
すると俺たちの身体を暖かな空気が纏わりつく。俺はこの感覚を知っていた。公爵家の中でも使える者がいるからだ。けど、そいつだって全属性じゃない。
「——肉体強化、付与」
それだけじゃない。身体に力が漲ってくる。付与の魔法は俺だって使えない。使用者がとっても限られた魔法なんだ。
トンと、ヨロズが何度も杖の先を地面に叩いていた。
「——精神覚醒、付与」
その度に様々な付与魔法が、俺たちの身体に掛けられる。それは単純な肉体の強化から、精神的な強さまで含んでいて。
自分が今までの自分じゃないような、胸の奥から高揚感がやってくる。
「貴方たち。とっても運がいいのよ? この私が行使する付与魔法をこれだけ掛けてもらえるなんて。本当はサーキスタ王都に家が建つぐらいのお金が必要なんだから」
そして、S級冒険者は軽く息を吐き出しながら。
「覚悟を決めましょうか、坊やたち——3000万ゴールドの高額賞金首、簒奪のステインが眠りについている間に、脱出するわよ」
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火の大精霊「……情けない」
シューヤ「……お前に言われなくても、分かってるよ」
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