355豚 シャーロットとの合流。前編④
俺は余り、運とか流れとかを信じるほうじゃない。
全て自分の力で何とかしようってタイプだ。運に頼って後悔するぐらいなら、全部自分の力で何とかしたほうがよっぽどまし。
いつもならそう考えるんだけど、今は違う。
間違いなく流れが来ている、そう確信出来るだけの材料が揃っている。
「——以上が、私が考えている計画。乗るか乗らないかは任せるけど、私の計画に乗れば、
「……」
「これからモンスターを数匹、減らしに行ってくる。奴らは群れると恐ろしいが、一匹一匹だと脆いから。私が戻ってくるまでに、決めて頂戴。それとモンスターにばれたくなければ、この家の中から出ないことを勧めるわ」
サーキスタ大迷宮の中層でたった一人で、生き抜いていたS級冒険者。
あいつは、この場所でこれまで何をしていたのかを簡潔に教えてくれた。
——あいつの目的は、アリシアが馬車の中で教えてくれた通りだった。
サーキスタが俺とアリシアの婚約に向けて動き出した。
誰よりも早くその情報に気づいたS級冒険者は、婚約破棄に向けて行動開始。サーキスタ王室の義務とされる王室への貢献をアリシアが別の方法で達成するために、仲間と共にサーキスタ大迷宮へ潜った。
そして、アリシアには大迷宮へ潜る直前に手紙一枚で事実を伝えた。
「はは……やっぱりS級冒険者ともなれば、スケールがおっきいていうかさ……お前もそう思うよな、アリシア」
「ええ……そうね……あの人は昔から、ちょっとぶっ飛んでいるところがあるから」
「S級だもんな…………俺たちには理解出来ないよな……ここから正面突破で逃げる……? そんなの出来るわけないって……」
「そうか? 俺はそう思わないけどな」
S級冒険者がアリシアのために動いた理由は、アリシアに対する負い目らしい。
幼少だった頃のアリシアに俺を婚約者として推薦したのは自分だと告げた。理由を聞けば、俺のことをよく知る冒険者仲間と仲が良くて、俺のことは知っていたらしい。
冒険者として生きるヨロズは勝手に将来の伴侶を決められるサーキスタ王室のやり方が好きじゃなく、それならせめてまともな人物を伴侶にしてやろうと思って、俺を推薦したらしい。
どうして俺なんだよと思ったが、当時の仲間から俺の話を聞いたのだとか。
余計なお節介にも程があるが、話はとんとん拍子で進んだのだとか。
「デニング……冗談だよな?」
「冗談じゃないって。何より、こんな場所で生き残ってきた奴の言葉だ。検討するには値すると思うぞ」
「で、デニング……お前……こんな場所で殿を務めるって……中層のモンスターをお前が一人で相手にするってことだぞ……!」
「そうよ、シューヤの言う通りよ! さすがに、無茶が過ぎるってもんだわ!」
さて、ヨロズがアリシアのために奪い取ったという
あれはヨロズの話によると、どうやらこの迷宮でボスとして君臨するスライムの一番の戦利品みたいなんだ。人間から勝ち取った証みたいな感じで、スライムはあれを何よりも大事に思っているらしい。
杖を奪い取った際の戦いは経験豊富なヨロズをしても、死ぬかと思ったらしい。
そして今、S級冒険者ヨロズと中層のモンスターらは毎日、語るも恐ろしい殺し合いを続けている。あいつはたった一人での脱出を諦め、来るべきその日に向けて、少しずつ砦に住まうモンスターの戦力を減らすことにしたらしい。
「いいか、二人とも。あの冒険者はとんでもない凄腕だ。迷宮の中に限定したら、間違いなく俺よりも力が上だと思う。だけど、そんなS級冒険者がこの場所から一人では逃げられないって白旗を上げているんだ」
「……でも! もう少し待てば、援軍が来るかも――! スロウ、さっきの声だってあったじゃない! あのサンサ・デニングが――」
「一番ダメだ。俺は、姉上やシャーロットをこんな危険な場所に来させたくない」
姉上やシャーロット達がやってくるのを待つ?
絶対にダメだ。
共倒れになる可能性もある。それは、俺が一番避けたい可能性だった。
「シューヤ。こんな場所で生き抜いてきたS級冒険者が今をおいて、他にチャンスは無いと言っているんだ。S級ってのは、とんでもないんだろ?」
「……そりゃあそうだけど、俺は反対だ」
ヨロズが語った計画は単純なものだった。
俺たちは、あの階段から上層に向かって脱出する。
先頭をS級冒険者のヨロズ、次にアリシア、シューヤと続けて、殿に俺だ。
ヨロズがアリシアとシューヤを連れて階段を上っている間、俺は殿として迫ってくるモンスターを迎撃。数分立ったら、俺も階段を上りヨロズの跡を追いかける。
ヨロズが言うには、やはりあの階段を駆け上がることが、上層へ戻るに最も効果的な道らしい。
「……ヨロズは、私の言葉なら耳を貸す。だからスロウ、考え直して。ヨロズの作戦はスロウに負担が大きすぎる」
「却下だ。俺は、考えを曲げない」
「……強情」
「何とでも言ってくれ。俺は決めた」
そして、俺たちはあいつの隠れ家らしいボロボロの家の中でヨロズの帰りを待ち続けた。窓もない部屋の中、外からは時折、おどろおどろしい声が聞こえてくる
もしかしたら、ヨロズがモンスターと戦っている音かもしれない。
「……」
アリシアもシューヤも気づいていない。
S級冒険者は、もうボロボロだ。碌な言葉も交わせない程、疲労している。それでも、そんな身体の不調を隠しているのは、アリシアらを心配させないためだ。
俺の目に映る精霊の姿、彼女は常時、自分の左腕を魔法で治癒している。
何らかのモンスターの攻撃を浴びたんだろう、既にヨロズの左腕そのものが毒になっている。よくよく様子を観察すれば、ヨロズがひっきりなしに左腕を抑えていることに気づくだろうが、アリシアもシューヤもそんな余裕はない。
そして、彼女が戻ってくる。
「——覚悟は決まった? 坊やたち」
「とっくに決まってる。俺は大賛成だよ。正面から、突破しよう」
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