353豚 シャーロットとの合流。前編②

 S級冒険者になるような奴らは変態だ。

 国を救ったとか、一人でヤバイ迷宮を潰したとか。

 誰もが伝説を残してS級になっているから、いつからかS級冒険者の奴らが持つ権力は大国の王族を超えるようになった。

 だから、S級のヨロズが行方不明になった時、各国が救出隊を送り込んだ。

 それぐらい、アリシアが抱きついた奴はすごい奴なんだ。


「ヨロズ! 全然昔と姿変わってないじゃない!」


 でも本音を言えばさ、正直、俺は半信半疑だったよ。

 アリシアはヨロズってS級冒険者はまだサーキスタ大迷宮の中で生きているに違いないって疑っていなかったけど、そんなのあり得るか?


 俺たちがいるのは、サーキスタ大迷宮の中層に構築された砦の中なんだぜ?


 砦の中には信じられないような数のモンスターがいたよ。

 道の往来でモンスターが何かを飲んだり、何かを食ったり、だけど、道の真ん中で寝ているモンスターもいたりと、治安なんてあったもんじゃない。

 こんな場所で、あいつは生き延びていたのか? たった一人で?


「はーい。嬉しいわ! アリシアちゃん! まさか、来てくれるなんて! 本物? 本物ね! 大きくなったじゃない! よくこんな場所まで来れたわね! 優秀なボディガードでも雇ったのかしら! あの鎧を着た二人?」


 俺たちがいる砦の中は、高位モンスターの巣窟なんた。

 冒険者から奪い取った金品を一本のロープに通し、じゃらじゃらと音を鳴らしながら歩く、下品なオーガがいた。

 口から牙を生やし、喧嘩上等、みたいな感じで道の中心を歩いていた。喧嘩したら、一撃でやられそうに感じて、近くを歩く時は腰が抜けそうだった。


 他にも、火山で肌でも焼いたような、赤色の赤銅肌のオークがいた。

 そのオークは偉そうに金属を張り合わせた鎧をつけていた。

 それに大振りの刃物や、腰には盾も。地上だったらオークの一団を統率出来そうだけど、そいつの格がこのサーキスタ大迷宮中層では普通なのだ。

 

 こんな場所で、あいつは生き延びていたのか? たった一人で? まじ?


「ヨロズ……! 何勝手なことしてるのよ……誰も私とスロウの婚約を何とかしてくれなんて頼んでないでしょ! 」


 アリシアが見え麗しい女性に抱き着いて、顔を上げる。そのまま、これまでの事情を説明している。俺は兜を被りながら、二人の様子を見ていた。隣でもシューヤが兜の下では、きっと俺と同じ表情をしているだろう。


 あれが、ヨロズ!?

 俺が聞いた話じゃ、おっさんって話だったが!? 

 ふつうに美女なんだけど! 

 あれが、迷宮の虐殺者なんて呼ばれる奴の正体っていうのかよ!


「地上はS級冒険者トップランナーの一人が行方不明って大変なことになってるのよ!」


「……そこまで?」


「S級冒険者の滅失は国難と同じ! 各国が救出隊を送り込んでるわ!」


「でもこの場所にまでやってこれたのはアリシアちゃん達が初めてよ? まあ、相当な運と実力が無いと来れない場所だし無理はないけど……あ! 聞いて、アリシアちゃん! 目的の物、取り返したわ! 地上に持って帰れば、皆驚くに違いないわ!」


「……目的のものってまさか……」



 そこから、あの二人はこしょこしょ話に入る。

 アリシアはあの美女から何かを見せられて驚いたり、怒ったり。こんな場所でも相変わらず表情の変化が豊かな奴だ。


 どうやら俺たちには聞かせられない話をしているらしい。

 積もる話もあるんだろう。アリシアも怒ってるようで、嬉しそうだし。


 ふう、俺とシューヤは一休みだ。

 こうやって、砦の中に入ってアリシアを見つけるまでで精神をすり減らした。


 上層で殺戮に夢中だったバックルの群れ、あいつらの姿も見かけた。 

 道の通りで深い眠りに入っていた。近くで見ると本当にゴリラそのもの。その体からは強い血の匂いがして、バックルの傍を通り過ぎる時は、出来るだけ足音を立てずに進んだ。

 俺の後ろをついてくるシューヤが失神しないかビクビクしたよ。


 時折、物陰で息を整えながら、心を落ち着かせて、何とかここまでやってきたんだ。


「なあ、デニング……ヨロズって、おっさんじゃなかったのかよ……あの美女、誰だよ……あれがS級冒険者なのか……」


 シューヤ、俺も同じ思いだ。

 ヨロズは野太いとんでもないおっさん。

 数十年前から冒険者の第一線で活躍し続けていたから、勝手にそう思っていた。

 でも、アリシアに頬を擦り合わせて、喜んでいるのは女性だ。それもかなり美人。

 

「……とても、こんな場所で生きていけそうに見えないけど」


「シューヤ、見かけだけで実力を判断したら痛い目にあう。少なくとも、あいつ……この砦の中で長い間、隠れ潜むことは出来そうな実力者だ」


「……そんなにか?」


「例えばだけど、あのS級冒険者は今、結界を張っている」


「結界ってどこに?」


「この砦、全体」


「は……?」


 とてつもない魔法使いだ。

 彼女はこの砦全体に、結界を張っている。結界の中心に彼女がいる。俺の目は精霊を写す。彼女が構築している結界は、モンスターの動きを探るためのもの。

 結界には色々な範囲がある。

 守る力だったり、弾く力だったり、触れた者の動きを知る力だったり。

 S級冒険者らしいあの美女は、数秒ごとに新たな結界を生み出しては、砦全体に広げている。そうやって、結界に触れる生き物の動きを感知しているんだろう。

 正直、やっていることがやばい。やばすぎる。えげつない魔法使いだ。


「砦全体……? じょ、冗談だろ……」


 きっと、俺たちが砦の中に入ってきたことも、あの結界を使ってすぐに察知したんだろう。だから、あいつは俺たちのいる場所にやってくることが出来た。


 シューヤが絶句しているところで、アリシアが俺とシューヤを指さした。

 すると、柔和だった美女の顔が険悪なものに。眉間に皺を寄せて、靴を脱いだ。


「スロウ・デニング!? アリシア様を振ったクソ野郎じゃないッ! 兜、脱ぎなあ! どっちが、スロウ・デニングなの!」


 ――いてえ!

 あいつは、履いていた靴を投げてきた。


 どうやら冒険者の頂点、S級冒険者様は俺に、言いたいことがあるようだった。

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