352豚 シャーロットとの合流。前編①

 俺は柵の中にぎっしり詰まった不思議な生物を退かして退かして、何とか不思議生物の中に埋まったアリシアを見つけ出した。


 アリシアは体についた汚れなんかぱっぱと払いながら、這い出てきて。


「す、スロウ……⁉ な、何なのあの鳥!」


「良かっただろ、食べられなくて。本当に危ないところだったんだぞ」


「……死ぬかと思ったわよ!」


 小声で取り乱すアリシアを見て、不思議と心が落ち着いた。最近ずっと冷静なアリシアを見ていたから、こっちの方が素のアリシアって感じがするんだ。


 ただ、俺たちがいる場所が問題だ。

 サーキスた大迷宮の中層、モンスターが住う砦の中に俺たちがいる。敵の本丸にやってきてしまった。

 S級冒険者には価値がある。各国が力のある人間を救出隊を派遣して助けようとしたけれど友達できなかった場所に俺たちがいるんだ。


 アリシアは、自分を落ち着かせるようにすーはーと息を吐いている。


「なあ、デニング……そんなことよりあれを教えてやれよ……」


 神妙そうな顔のシューヤ。

 この迷宮に入ってからはずっとのことだけど。


「そうだなシューヤ。ええと、アリシア砦の中の様子、お前……少しは確認したか?」


「そんな余裕はなかったわよ……本当に死ぬかと思ったんだから!」


「ま、そりゃあそうだよな……」


 当然のことながら優雅な空中散歩とはいかなかったようだ。だから俺たちがご丁寧に、モンスターがひしめく砦の中がどうなってるかを説明してやることにした。


「朗報だ。お前の探していた冒険者、この砦のどこかで生きているみたいだぞ」


「え、うそ!」


 その言葉にアリシアはぱあっと顔を輝かせた。


「S級冒険者のヨロズと、砦の中のモンスターはばちばちやり合ってるみたいだ。毎日、ヨロズはどこからともなく現れてモンスターを襲っているらしい」


「どういうこと? 詳しく教えて頂戴」


 俺はアリシアを見つけ出すまでに、少しだけだがこの砦の中をオークの真似をして歩き続けた。そして、ある程度の情報を集めることが出来たのだ。


 ここは、あそこに少しだけ雰囲気が似ている。

 ヒュージャックに巣食っていたモンスター。あいつらも似たような国を形成していたが、こちらの方が遥かに文明的だった。

 でも何て言うか、雑なのは否めないが。

 道も真っすぐじゃないし、微妙に曲がっている。

 石造りの家も、ただ、巨大な石を組み立てて継ぎ目を泥か何かで埋めているだけ。

扉は無い。開けっ放しで防犯の欠片もない。


「……モンスターが騒いでるよ。冒険者、ヨロズに気をつけろってさ。アリシア、お前が探していた冒険者ってとんでもない奴なんだな。あと、それだけじゃなくてさ」


 上層も相当やばいモンスターで溢れていたけど、この砦の中にいるモンスターはあれ以上だ。 平気で恐ろしい巨人族とかが道の真ん中で寝ているし、あいつらと一線交えるなんて考えるだけで馬鹿らしい。

 それと戦っている冒険者はとんでmない。

 現に建物はまるで襲撃の跡みたいに壊れている。俺とシューヤが聞いたモンスターの声によると、あれがS級冒険者であるヨロズとの戦いの跡らしい。


「S級冒険者のヨロズは、俺の目的である二属の杖ダブルワンドを既に盗み出しているらしい。あいつからそれを取り戻って、大騒ぎしているぞ」


 つまり、俺たちは後発組だったようだ。

 誰よりも早くアリシアと俺との婚約話を聞いたS級冒険者が、その話を潰すべき動き出していた。だけど手に入れたはいいけれどこの鳥の中から出られなくなっているらしい。


 図らずしも、アリシアの目的の人物が、俺とシューヤの目的と合致したわけだ。

 ここまでくると、俺もS級冒険者のヨロズがどんな奴なのか興味が出てくる。


「なぁ、シューヤ。ヨロズってのは、どんな冒険者なんだ?」


 おっかなびっくり辺りを見渡しているシューヤを落ち着かせる意味でも、話しかけてみた。


「……デニング、S級冒険者ヨロズってのは秘密の多い奴で、俺も詳しい話は全然知らない」


「へえ。S級なのに有名じゃないのか」


「虐殺者なんて言われてるぐらいの奴だぞ……? 言われている通り、かなりヤバイ人ってのは聞いたことがある……高位冒険者の中じゃ、かなり嫌われてるとか……」


「嫌われてる? S級冒険者ってのは憧れられる存在じゃないのか?」

 

 シューヤは、迷宮都市の紅蓮の瞳ウルトラレッドに憧れていた。

 冒険者にとってS級冒険者って言うものは、大抵冒険者が憧れる存在なのだが、この砦の中に隠れ潜んでいるヨロズはちょっとだけ違うらしい。


「……冒険者には、冒険者のルールがあるんだよ。獲物を横取りしないとか、助けてもらった借りはちゃんと返すとか……だけど、ヨロズっておっさんは約束は平気で破るし、柄も悪い。ヨロズが組んでる冒険者パーティ、チーム虐殺者は悪評も強くてやりたい放題なんだ。正直、俺も関わりたくない」


「——随分な言い方だな。私はそこまで敵を作った覚えは無いけれど」


 第三者の声。どこだ。

 というか俺はどうして気づかなかった!


 ここは敵地だ。何があってもいいように俺は常に、警戒をしていた。だけどそいつが近づいてきていることに全く気づかなかった。


 即座に何重もの結界を発動。

 俺とシューヤ、アリシアを守るように鈍い半球状の輝きが発生する。けれど、俺が作り出した結界の中から飛び出す奴が一人!


「え!? おい、ちょっとアリシア! どこ行くんだよ!」


「——ヨロズ!」


「は!?」


 声の主は、俺たちと変わらない姿、人間だった。

 しかも女だ。冒険者だ。

 俺たちが聞いていた野太いおっさん……じゃない。


「アリシア様と、坊ちゃんが二人。援軍にしては、頼りないけど、ここまで来れるならそれなりの実力者なんだろうね」


 特徴的な耳に、人間にしてはあり得ぬ造形美。

 迷宮の中であっても光り輝く若草色の髪が放つ艶、人ならざる美貌を持つ女性がそこにいる。

 アリシアを抱き留めた姿を見る限り、間違いはないんだろう。

 つまりS級冒険者ヨロズが、そこにいたわけだ。



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