351豚 中層「悪魔の黒剣」③
サーキスタ大迷宮中層以降は、この世の物ともは思えない別世界だってどこかで聞いたことがあった。
でも、大迷宮に入る前と後のシューヤの変わりようを見ていたら間違いじゃないんだろう。
「……ぶっひぶっひ」
アリシアが巨大な怪鳥に捕まったあの場で、咄嗟に動けたのは良かった。一歩でも 躊躇してしまったら、きっと足がすくんで動けなかっただろう。
岩場を進んで行く先に、大きな堀があって、その先には巨大な砦が築かれている。それはヒュージャックで自由を謳歌していたあのオークキングらが作り上げた村とはまるで別物。
こちらは戦争でも耐えうるぐらいの堅牢さを誇っている。
「……ぶっひ」
堀と砦を繋ぐ橋の上を俺と シューヤが渡っている。橋の下を覗き込んだら、下は真っ黒で、落ちれば死は避けられないだろう。
下は硬い地面なのに、どれだけ掘ったんだよ。この堀を作ったモンスター達の重労働はとんでもないだろうな
しかし、この橋、本当に大丈夫だよな? 突然、崩れたりしないよな? さっきはバックルの群れが渡っていたから大丈夫か。
「ぶひいぶひい!」
「おい、デニング……うるさいって何してるんだよ」
オークの声真似をして、砦に続く橋をおっかなびっくり渡っていく。
兜をしっかりと被り、のろまなオークのように、ゆっくりとぶひぶひ言いながら歩いている。後ろじゃシューヤは気が気じゃないようだ。やっぱり肝っ玉が小さいやつだ。こういうのは案外堂々としてみたほうがうまくいくんだって。
「で、でにんぐぶひ、あいつら、見てるぞ、ぶひ……」
どうやらシューヤも俺を見習ってオークの真似をすることを決めたようだ。よしよし、良い傾向だ。
正直、下手すぎるけど、チャレンジした気概にはグッジョブといいたい。
さて。
橋の向こう側、砦の入り口に立っている二体のコボルト。黄金の鎧をきて、なんだかとっても筋肉ムキムキ。回し蹴りとかしてきそうな感じ。
奴らは俺たちを気にすることなく喋り続けていた。二足歩行で犬の顔を待つコボルトはその視力の良さから、ああして門番をすることが多いと知識では知っている。でも、どう見てもあの黄金鎧コボルトはその辺のモンスターの下につくような格には見えなかった。
地上だったら、コボルトの大軍勢の中で将軍とか、その辺の地位に就いていそうだ。
「みてるぶひ、でにんぐ、あいつら見てるぞぶひ」
「堂々としてろぶひい!」
しかし、オークの真似を堂々としていれば案外ばれないものだな。
コボルトは欠伸をしながら、俺たちを見ているが、欠片も興味を示している感じがない。
「……ぶひ」
「でにんぐぶひ。アリシアが……」
「分かってるぶひい!」
アリシアを捕まえた怪鳥は、悠々と空を飛んでいる。
厳密に言えば、空じゃない。ここは地下だから、空は無いのだ。
だけど、この巨大空間の天井は高く、あの怪鳥は天井すれすれを飛んでいた。
ふうむ。どうやってアリシアを助け出すか。砦の中に入り、モンスターから姿を隠しながら、あの怪鳥を狙撃するか。でも……あの高さから突然、放り出されるアリシアはパニックになるよな?
そうしたら全てが終わりだ。
アリシアが騒いだら、砦の中にいるモンスターに俺たちの潜入がばれるのは間違いない。
「……でにんぐ。やったぞ! 潜入できたぞぶひ!」
「当たり前だぶひい!」
こうして、門番コボルトの視線を受けながら、俺たちは砦の中へ侵入したのだった。
あのアリシアを連れ去った怪鳥は何の意図でアリシアを捕まえたのか。
俺たちは絶対、巣に連れて行って美味しく食べるに違いないと思っていた。
でも、実はそうじゃなかったらしい。
「でにんぐぶひ! アリシアが! 落ちたぶひ!」
「分かってるぶひい! 行くぶひ」
だって、あの怪鳥は突然、急降下して高度を落とし、アリシアを途中で落としてしまったんだ。
あいつがアリシアを落とした場所は何かの生き物が多数、捕らえられた建物の中だった。その建物には屋根がなかった。ここは地下だから雨も降らないし、必要ないのだろう。
「なんだここぶひ……くさいぶひ」
「シューヤ。周りにモンスターはいないから、もう普通に喋っていいぞ」
「……」
建物の中には柵が作られ、柵の中には不思議な生物がひしめいている。
俺は柵の中にぎっしり詰まった不思議な生物を退かして退かして、何とか不思議生物の中に埋まったアリシアを見つけ出したのだった。
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