345豚 サーキスタ大迷宮③
頭の中が本当に真っ白になってしまう。どうして姉上の声がこんな迷宮の中で聞こえてくるんだ。
だけどあれっきり姉上の声は聞こえなくなってしまった。
俺たちはあまりの出来事に言葉が交わせなくなったが、最初に我に返って、反応したのはシューヤだった。
「で、デニング! 合流しようぜ! サンサ様が一緒にいたら鬼に金棒だろ! 俺たちだけでこんな危険な迷宮に潜る事はないって!」
シューヤは、俄然乗り気のようだ。
ずっとへっぴり腰の弱気になっていたくせに……よくもまあ。
俺の姉上、サンサ・デニングは公爵家の中でもかなりの重要人物で有名人。
まさか一人でこの危険な迷宮に入ってきてはいないだろう。めちゃくちゃ強い姉上の従者もいるだろうし、数人は騎士を連れているはず。
しかし行動が早すぎる。
昔から思い立ったらすぐに行動するのが姉上の良いところだったけれど、こんなところで発揮しないでくれよ。どうやって俺やアリシアがサーキスタ大迷宮に潜るなんて情報を掴んだのかは知らないが、公爵家の権力を総動員して俺たちを追ってきたんだろう。
「スロウ、いまのって……あれよね」
「完全にばれたな。しかも、姉上たちは冒険者ギルドと協力しているようだ。どうする?」
迷宮の入り口から、俺たちがいる場所まで声を響き渡らせるなんて俺でも出来やしない。
あれは冒険者ギルドが所有しているマジックアイテムの力だ。
だけど迷宮の中のモンスターを活性化してしまう恐れがあるため滅多に使われない。
一般の冒険者が迷宮の中で死にかけてるぐらいでは使われないはず。モンスターが暴れだして迷宮の中にいる他の冒険者が危険になるからだ。
あのマジックアイテムが使われるのは本当に重要な人物が迷宮の中にいる時ぐらいのもの。例えばそう大国のお姫様とか。
「だめよ! 確かにあの方の力は魅力的だけど、合流したら迷宮の外に引き戻されるわ! 絶対にこの先には進めなくなる!」
そして、当の本人はかたくなに俺の姉上からの申し立てを拒絶していた。
アリシアの言う通りだろう。
冒険者ギルドの至宝とされるマジックアイテムの使用許可が降りた、それほど冒険者ギルドも本気だと言うこと。もしかしたら姉上のそばには冒険者ギルドが手配した高位冒険者たちもいるかもしれないな。
改めて思い知らされる。
ついつい忘れそうになるけれどこの女の子、アリシアは大国サーキスタの王族なんだ。とんでもない立場の人間でもある。
「で、デニング! お前の従者のあの子だって来ているって言ってたぞ!」
はぁ。
わざわざ俺が考えないようにしようとしていたことを。
シャーロットが姉上と一緒にいる。
姉上もわざわざシャーロットを連れてくるなんて何考えてるんだよ。
シャーロットは今公爵領地で魔法の勉強中だったはずだ。こんな危険な迷宮に連れてきても、戦力にはならない。絶対に俺の足止めをするために連れてきたんだ。
本音を言えば今すぐにでもシャーロットと合流したいさ。
だけど、俺も覚悟を決めないといけない場面だろう。
「行こうアリシア。姉上は冒険者ギルドの協力を得ているようだけど、この地図があれば簡単には俺たちには追いつけないはずだ」
俺とアリシアの婚約騒動が外で発展しているなら止めないといけない。
ダリスとサーキスタ、二国の友好の証である
俺とアリシアの婚約の目的がダリスとサーキスタの同盟強化にあるのなら、
「——おい、デニング! 後から何かとんでもないモンスターが追いかけてきている! 絶対にさっきの声が原因だろ!」
それにしても……やってくれるなあ、姉上!
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ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
何とかかんとか、距離はありますがスロウとシャーロットが同じ迷宮の中に入りました。やっとシャーロットちゃんを絡ませられることが出来そうです。
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