サーキスタの大迷宮へ潜ろう

343豚 サーキスタ大迷宮①

 世界は広い。

 大陸南方という括りで見ても、一般市民から国と認められている国の数は十を超えるし、諸王らが自ら国と名乗っている地域も含めればその数は一気に増える。


 さて、サーキスタという国の特徴を挙げろと言われれば、やはり軍事力か。

 サーキスタは南方に存在する四つの大国の一つに数えられるだけのことはあって強大な軍事力を持っている。特に俺たちの故郷であるダリスよりも、モンスターへの対応力という点では大幅に勝っていると言っていいだろう。

 サーキスタはモンスターを相手にする場合、騎士国家ダリスでさえも及ばない力を発揮するのだ。


「まさか炭鉱の道が大迷宮に繋がっているなんて、思いもしなかったよ。なあ、アリシア、例えばの話だけどさ。この道の情報を冒険者ギルドに売ったらどうなるかな」


「この道を使えばサーキスタ大迷宮の中層に簡単に潜れるんだから、そりゃあ莫大な価値になるわよ。でもスロウ……分かってると思うけど、変なことは考えないでよ?」


「分かってるって。お前が持ってきたこの地図のでたらめな情報は、他に漏らさない。なあ、シューヤ。お前も分かってるよな?」


 そんなサーキスタが抱える大迷宮、悪魔の牢獄デーモンランド

 大陸南方に存在する未踏破迷宮の中でも飛び抜けて悪辣で、下層には見たこともない極めて強力なモンスターが闊歩しているとか。南方冒険者ギルド総本山は、踏破不可能と判断し、許可無き冒険者の迷宮攻略を禁じている。即ち、潜れば死ぬと評価されている迷宮、それこそが悪魔の牢獄デーモンランドなのだ。


 冒険者の長い歴史を見ても未攻略であり、攻略の目処は立っていない。

 そして恐ろしいそんな恐ろしい迷宮に俺たちは今いるのである。


「……で、デニング。それにアリシアも。お前たちなんか余裕だな。俺たちがいるのはあのサーキスタ大迷宮なんだぞ」


「今更悩んだって仕方がないだろ。それに何びびってるんだよ、シューヤ。出発の前はやる気満々だった癖に」


「そ、それを言うなって……」


 悪魔の牢獄デーモンランド、それは山脈の地下に構築された巨大な地下迷宮の名称だ。

 正規の入り口は冒険者ギルドによって厳重に管理され、相応の実力者のみ立ち入りを許される。


 俺たちが入り口に選んだのは当然、冒険者ギルドには知られていない入り口だ。

 今はもう使われていない廃坑の洞穴がサーキスタ大迷宮に直接繋がっているとアリシアが持ってきた地図には書かれており、馬車を引いてくれたあの巨大な蜘蛛もまさに地図が指し示す場所に俺たちを案内してくれた。

 ちなみにあの蜘蛛とは洞窟に入る前でお別れだった。

 妙な親近感を感じていたので、残念なことこの上ない。


「アリシア、もう一度目的を整理しよう。お前の目的はサーキスタ大迷宮中層に潜って姿を消した高名な冒険者の保護、それでいいな?」


「その通りよ。あの人が死んでいるなんて私には到底、思えないから」


「よしよし。なあ、シューヤ。俺たちの目的地も、アリシアと同じでいいよな?」


 サーキスタとの国境沿いで盗賊団に襲われてから数日。

 俺とシューヤは、アリシアに内緒で、女王陛下への手土産を何にするかの話し合いを重ねていた。

 そして、度重なる話し合いの結果。


 アリシアが向かう先に存在する中層の宝物庫。

 宝物庫の中で厳重に保管されているだろうダリスとサーキスタ友好の証、通称、二属の杖ダブルワンドを陛下への手土産にすることを決めたのであった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る