339豚 真夜中の攻防③
「何よ今さら……サーキスタがスロウを選んだ理由なんて……そんなの……」
確かに
それでも、他国には大勢いたはずだ。あの頃は、来たるべきドストル帝国との戦争に向けて、各国から英雄候補とも思える若者が何人も現れた。あの時代、なんて言い方は大袈裟だけど、確かにあの頃は各地で英雄候補の名が上がった。シルバやクラウドもそうだ。それに俺の兄弟でも良かっただろう。長兄のエイジなんかは性格にクッソ難有りだけど、俺の感覚じゃあいつが一番次期公爵に相応しい。
そんな疑問を今まで抱かなかったことが不思議だった。
アリシアと俺の婚約話が復活。ちょうどいい。この機会に教えてもらおう。この機会を伸ばせば、俺はもうあの頃の真実に触れられない気がした。
「それは……たくさんいる婚約候補の中じゃ、スロウが断トツでオススメだって、教えてくれた人がいたのよ。将来も安泰で、性格もいい、領民にも好かれていて、何よりもサーキスタのためにもなる。スロウ・デニングはきっと、
初耳だった。
俺とアリシアの婚約が進める上でそんな人がいたなんて。
それってあれだよな。サーキスタ王国の中枢に、
でも、当時のサーキスタ内部に俺のことを詳しく知る人がいるとは思えなかった。それもサーキスタ王室であるアリシアと直接の関係を持てる人なんて少ない筈だ。相当、偉い地位にいる人物だ。
「あの人は、今はもうどこで何をしているかもわからない。忙しい人で、あの時、サーキスタにいたのも偶然だった。短い時間だったけど、凄い好きだった。私に色んな外の冒険譚を聞かせてくれて、胸が熱くなったわ。今思えば、あの人は当時の私を憐れんでいただけだろうけど……あの時の私は自分の意思なんて無いようなものだったから、あの人の言葉はとっても心に響いたの」
アリシアが語る思い出の誰か。
そいつのことを語るアリシアは、とても嬉しそうで誇らしげだった。幼い頃の思い出は、それが素晴らしいもの程美化されるもんだ。
しかし、誰だ。
そいつが
そこから、俺とアリシアの婚約話が一気に具体化して、加速したようだ。本人が望めば、その手の話は進みが早い。
「スロウ、これはシューヤにも伝えていない話だけど、貴方には話す。スロウとシューヤがサーキスタ大迷宮を目指す理由も私には分からないけど、様子を見たら主導権を握っているのはスロウだと思うから」
「ま、まあ……主導権って言葉が正しいのかは分からないけどな。一応、俺とシューヤは対等ってスタンスで、だけどシューヤは自分の用事に俺が勝手に着いてきたって思ってるし」
本当にふざけた奴だ。
女王陛下の勅命をあいつ一人でこなせると思ってるのかよ。女王陛下が、火の大精霊を抱えるシューヤを信じているのは、俺がいるからだ。俺の存在が、シューヤ・ニュケルンという存在を生かしている。
まぁ、こんな暗い話をシューヤに教えるつもりは毛頭ないが。
「スロウ。今から伝える話は、私にとって大事な話。だから、茶化さないで聞いて欲しい」
アリシアは大真面目な顔だ。
でも俺はアリシアの話を一度も茶化したことなんてないと思うけど、随分な信頼感だ。
「ずっと長い間、私にスロウを推薦した人とは連絡を取っていなかった。取れなかった、と言うのが正しいわね。国に縛られるような人じゃない、でもその人から私宛てに手紙が来たの。私とスロウの婚約の話に関してよ」
「……なあ、アリシア。そいつって、俺の知っている人間か?」
気になって仕方がなかった。
そいつが、俺のことをアリシアの婚約相手として推薦したメリットは何だ?
やはり騎士国家関係者か? ダリス王室関係者の人間? 他国に派遣されることもある
しかし、俺の問いに応えることなく、アリシアは続ける。
「手紙には私とスロウの婚約の話は、自分で責任を取って潰すから心配するなって書いてあった」
「俺とお前の婚約を潰すって、どうやって……」
俺とアリシアの婚約は、大国同士の約束事といっていい。
大国サーキスタが本腰を入れて動いているなら、個人の感情でひっくり返すことは難しい。俺が真っ黒豚公爵になった理由も、サーキスタ側から婚約を破棄してほしかったからだ。
「出来るわ。だって私とスロウの婚約、目的は両国の関係強化。両国の関係が崩れた原因。サーキスタ大迷宮に逃げ込んだモンスター、あいつにサーキスタとダリスの友好は引き裂かれた。あいつがダリスから奪った宝物を奪い返すために、あの人はサーキスタ大迷宮に潜り、行方知らず」
「……おい」
待ってくれ、それは、待ってくれ。
俺は聞いた。王都ダリスで、シルバから、各国が
まさかまさか、まさか。
「私の故郷、サーキスタ王国が嘗て全面的に支援した冒険者。国境知らずのS
目の前が真っ暗になった。
大きすぎる話だからだ。それはとんでもないスケールの話だからだ。迷宮を攻略し続けるS
アリシアの力強い瞳を見て、理解する。嘘じゃない、真実だ。アリシアはこの手の話で嘘はつかない。ならば、間違いないんだろう。
女王陛下の策略とも思えた。陛下は、S級冒険者ヨロズがサーキスタ大迷宮で行方不明になったと知り、
でも、考え込むわけにはいかなかった。
何故ならその時、再び不思議な違和感に気づいたからだ。
やはり――魔法か。魔法だよなこれ。
「……アリシア。ちょっと、ここで待っていてくれ。シューヤを呼んでくる」
「な、何よ、人が大事な話をしているときに。それにシューヤには今の話、内緒にしてよ!」
「お前やシューヤは、まったく気づいていなかったようだけどな。俺たちは――狙われているんだ。どうやら、奴らが動き出した」
「……え」
きょとんとするアリシア。
はぁ、全くもってダメダメだ。
シューヤもアリシアも、なっていない。いつも公爵家の人間がぼやいているが、クルッシュ魔法学園の卒業生を軍人に鍛え上げるのに、相当苦労するというのも納得だった。
彼らは、敵意に弱い。弱すぎる。敵地で違和感に気づけないということは、致命的だ。
「これ以上は見過ごせない——誰に喧嘩を売ったのか、奴らに教えてやる」
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