307豚 新しいアニメキャラクター

 しゃんと背筋を伸ばし、きっちりとした姿から、俺との共通点を見つけることが難しい。

 それに横顔からだけで分かる。めっちゃ美人だ。

 俺と同じ血が混じっているとは到底、思えないって。緒に街を歩いていても俺とこの女性が姉弟だと思う人は一人もいないだろう。

 昔から冷たい美貌が自慢の姉上だったが、これが育成成功ってやつか。くそ。

 随分と久しぶりに見る姉上、サンサは相変わらずクールニューティーだった。


 胸に公爵家の人間であることを示す勲章をつけた姉上は俺の真横に堂々と立ち、クールな眼差しで、火の大精霊を見つめている。


「スロウ。あれもお前の計画なのか」


「……まさか。民間人を巻き込む気は無かったです」


 火の大精霊が人質を取る? そんな話、俺も聞いたことがない。

 でも姉上の言う通り、シューヤの姿をした火の大精霊さんは黒髪の女の子の腕を取り、強張った顔に杖を向けている。そして、火の大精霊さんは何か要求をするでもなく、こちらの反応を伺っているように見えた。


「スロウ、分かっているな……。シューヤ・ニュケルンと火の大精霊の適合率が高まる前に処分せねばならない。お前がやらないと言うのなら、これから先は私の手で奴を殺す」


 姉上が俺より一歩前に出た。

 行動が素早い。悩む素振りもなかった。そうだ。この人はそういう人だった。

 心優しい姉上。クールな外見からは誤解されがちだが、民に優しく自分に厳しい軍人の見本だ。今や一軍を預かる身となり、あの頃の責任感は大人になった今も健在らしい。

 だから俺は。


「——氷彫像アイスドール


 そんな姉上の腕を、氷の魔法で凍らせる。

 まさか俺に魔法で攻撃されるとは、姉上も予想外のことだったろう。余りにも簡単に、姉上の細い腕がカチカチの氷に包まれる。

 姉上はきっと俺を睨みつけた。


「スロウ——貴様」


「姉上。計画通りとは到底、言えない状況です。だけど、もう少しだけ待つ価値はあるかと」


「価値があるだと?」


 しかし、完成された美っていうのか、こう睨まれたら堪らないものがあるよな。それぐらい、姉上は底冷えするような美人なんだ。

 この人が俺と姉弟っていうんだら、神も恨みたくなるよ。親は同じはずなのにどうしてこうも違うんだよ。何故かデニング公爵家の人間は美男美女が多いんだよ。ふざけんな。


「シューヤを救おうとしているのは、俺だけじゃないようですから」


「……何?」

 

 動かない火の大精霊さんに夢中な姉上はまだ気づいていないようだが、俺たちに近づいてくる誰かがいる。

 俺と火の大精霊さんの戦いには我関せず、ずっとどこかで隠れていたのだろう。

 俺の肩をぽんと叩いて、その人は火の大精霊さんの方へ向かっていった。


「デニング、俺に考えがある」


 そんなかっこいい言葉と共に現れたのはクルッシュ魔法学園きっての実力者。ふざけたアフロ、ロコモコ先生の背中が火の大精霊へ向かっていく。ふざけたモードじゃなくて、真剣だ。服はズタボロになって、引き締まった身体を晒している。


「後は任せろ。きっと上手く行く」


 強者オーラがハンパないが、服がボロボロの理由は俺と火の大精霊さんの戦いから逃げ回っていたからだろう。

 その事情を知らない姉上が、ロコモコ先生の存在感に圧倒されたのも無理はない。

 その背中からは、俺に任せとけオーラがハンパない。

 ロコモコ先生はアニメの中でもここぞという時に頼りになる人だ。


「シューヤ! 俺は丸腰だ! まさかお前は無抵抗の相手に攻撃するような、外道になっちまったわけじゃないよな!」


 そんな先生が両手を挙げて、火の大精霊さんに近づいていく。姉上は小声であの男は何者かと問う。学園の先生であることを伝えると、姉上はあの男が噂の、と納得したようだった。 

 姉上の基準では、ロコモコ先生は民間人ではないらしい。ちなみに魔法で姉上の腕は凍らせたままた。これぐらいしないとこの人は、止まらないんだ。


「シューヤ! お前、前に言っていたよな! 正しい力を身につけて、人を守れる人間になりたいって! 今のお前がやろうとしていることは真逆の道だぞ!」


 ロコモコ・ハイランド。

 先生の登場によって、均衡が崩れる。一体どんな策を思いついたのか。俺は何が起きてもいいように、準備を怠らない。それは姉上も同じ様子らしい。杖を持ち、複雑な詠唱を初めていた。

 だけど、一番大きな反応をしたのは、人質になっていた女の子だった。


「——せ、先生! 私、人質になるって、約束守りましたよ! だから今度のテスト、満点にしてくださいよっ!」


「任せておけ! ティナ、お前のテストは全部満点にしてやる!」


 ずっとこの場所のどこかで隠れていたのなら、シューヤが荒れ狂っている全てを目撃しているに違いない。

 なのに悲鳴の一つも出ない理由は、あの女の子が恐怖に震えているから。

 俺も姉上もそう考えていた。でも、あの女の子は火の大精霊に杖を向けられた状況で小さくガッツポーズ。

 そして、クルッシュ魔法学園の制服を着た彼女は大胆にも――。


「でも、先生ー! このお貴族様、様子が変ですよー! ゴーレムみたいに固まって、わー、息もしてない!」


「よ、よし! シューヤが一番嫌う人質作戦、大成功だな! ティナ、お前はもう役目を果たした! 戻ってこい!」


「……お、おい。スロウ、あれはなんだ」


 姉上が困惑しているかのような声を上げるが俺も同様だった。

 いやむしろ困惑度合いで言ったら姉上よりも俺の方が高いかもしれない。

 だって俺は気づいてしまったから。


「えー、先生ー! 私、まだ人質やってた方がいいんじゃないですかー!? この人、ぶつぶつと独り言を言って凄い混乱している感じですよー! 俺は卑怯じゃないとか、自分の身体を返せとか! でも今更って話ですよね!」

 

 シューヤが暴れている様子は散々目にしてるはずなのに、なんら恐れている様子がないあの子。

 大きな瞳に、小柄な身体。だけど、アリシアよりも弾ける元気が伝わってくる。

 どこかで見覚えのある女の子だと思っていた。さっき、ロコモコ先生が叫ぶ女の子の名前を聞いて、ようやくぴんときた。


「だって、、デニング様に勝とうとしたんですから!」


「そ、そうだぞ! ティナ! そいつはデニングに勝って王室騎士ロイヤルナイトになるために、危険なマジックアイテムを使った大馬鹿野朗なんだ!」


 クルッシュ魔法学園に通う平民の女の子。

 苦学生のティナ――アニメの登場人物、その一人じゃねえか!

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