295豚 これ以上は御免だと言いたいけどな

 俺が何も知らない真っ黒豚公爵だったら。

 今のシューヤの言葉には、鳥肌が立っていただろう。

 あの頃の俺はこいつのことが大嫌いで、隙を見つけては喧嘩を売っていたから。


「黒龍の時も、迷宮都市も。俺とアリシアがヒュージャック横断に挑戦した時もそうだ。全部お前が助けてくれた」


「……」


火の大精霊エルドレッドが教えてくれたんだ。つい最近のことだけどな」


 こいつは自分に残された時間の少なさを知っている。 

 なのに、俺と話したいなんて馬鹿かと思った。だって、もっと大事なことが山ほどあるだろ。こいつは友達も多いんだし、仲の良い家族だっているわけだし。

 何で最後の最後になるかもしれないこの場面で俺なんだよ。

 でも、この鬼気迫る表情を見れば何も言えない。


「俺、何度お前に助けられてるんだよって話だよな。あれだけお前のこと豚公爵って馬鹿にしてたのに……見てる人は見てるってことか。そう思ったらお前が王室騎士になるのも当然に思えてくるよ」


「誰にも気づかれずやってたつもりなんだけどな。まさかシューヤ、鈍いお前にばれるなんて驚きだよ」 


「相当、上手くやってだろ。俺にこんなインチキエルドレッドがいなければ、何も気づかなかったわけだし」


 でも、そうか。

 俺のやってきたこと、遂にこいつに気付かれたか。

 そう言われて、悪い気分はしなかったよ。

 何て言ったって、アニメの主人公様。本来は俺よりも遥か格上の人気者だ。

 

「デニング。もしかしたら、俺達、友達になれたかもなって……あー、やっぱり今の無し。自分で言ってて鳥肌立ったわ」


「ふざけんな、シューヤ。お前と友達なんてな……こっちから願い下げなんだよ。あのな、お前がトラブルに巻き込まれやすい体質って俺、知ってるからな。これ以上の面倒見るのは御免だ。それより、俺と話したいことってそんなしょうもないことなのかよ。違うだろ」


 いつのまにかあれだけの騒ぎが止んでいる。

 砂嵐の外では生徒の避難が遂に完了したのかもしれない。


「俺の中で、火の大精霊エルドレッドが猛ってて……これ以上は限界だ。火の大精霊エルドレッドを抑えられない。だけど――今なら、まだ間に合う」


 俺達がいた場所は地面が大きく隆起。

 巨大で不恰好な建造物が幾つも構築されている。この積み重なった廃墟が、ロコモコ先生が構築した戦場だ。

 高さも建物ごとにバラバラで、俺の身体もすっかり巨大な建造物の屋上にある。

 これから火の大精霊エルドレッドの殺害を狙うヤバい奴らがこの場に現れる。それでも火の大精霊エルドレッドとの実力差は桁違いで、余りにも一方的な戦いが始まるんだろうけど。


「俺をヤれよ、公爵家デニングの神童って呼ばれたお前なら出来るだろ?」

 

 こういう自己犠牲マックスな所はやっぱり変わらない。

 今にも崩れ落ちそうなアニメ版主人公様を見て、思うんだ。

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