273豚 ――クルッシュ魔法学園、開校通知(side アリシア)
大国サーキスタの国土、凡そ半分を占めるレトバル湖。
透明な水面の下には世界屈指の多様な生命体が息づいている。
世界屈指の美景と称されるレトバル湖の畔には、目も奪われるような都が広がり、その中でも一際目を引く水景御殿。
透き通る透明な柱に覆われ、頭上からは幾つもの光が差し込むそこは異世界。
レトバル湖を居住の地に定めた水の大精霊の力によって守られし王宮内を、美しいドレスで着飾る少女がとぼとぼと歩く。
その姿は溌剌した魅力に満ち溢れていた魔法学園の姿とはまさに別人で。
アリシア・ブラ・ディア・サーキスタは自室に戻ると、頬を両手で覆い――。
「はぁーー……」
噛み締めるように漏れる声。
水景御殿――王の間からここまでずっと我慢していたが、一人きりになったことで肩の力が抜けて行く。
「……呆れた。今更、昔のことを掘り返すなんて」
アリシアという少女はクルッシュ魔法学園では近寄り難い高値の花扱いされていたが、実のところ聡明だ。
学園での成績だって魔法の力は並み程度だが、座学に関してはトップクラス。
だから、というわけじゃないが――両親らの考えも分かる。
理解は出来るけど……納得は到底出来そうになかった。
確かに自分とアイツの間には縁がある。
それは自分でも小さなものじゃないと思っている。
けれど、それは違うんじゃないか?
……。
とっくの昔に破綻していると思ったのに―――アイツとの婚姻関係はまだ終わっていないと聞かされたのはついさっきのことだ。
それに――何を根拠に、とも思うが
万が一、両親が力説する通りになれば――アイツは将来、大国の王とも等しき発言力を手に入れることとなる。
それはあの、デニング公爵よりも格上の権力。
だから、今のうちにアイツと距離を近づけておけ、というのは納得出来る。
でも……。
でも――それは妄想が過ぎるんじゃないだろうか? それに?
「――だからって! アリエナイ、アリエマセンわ、アイツに媚び売ってこいだなんて! そんなのプライドが許しませんわ!」
だから――アリシアは頭にきて。
それ以上、何も聞かずに王の間を飛び出したのだ。
こうして
手の中には、数日前彼女の元に届けられたクルッシュ魔法学園の開校通知。
しかし他の平民、貴族生徒よりも文面が幾つか追加された特別仕様らしい
「――”先の事件を踏まえ、今学期から私に一名護衛を、それも家柄に相応しい者を”……ってこれ、どういう意味かしら? 私、そんなの聞いてませんけど……」
かくして――未来を知った少年は勝ち続けた。
盤上で起こる大半を掌握し、最速の世界平和は達成された。
予期せぬ出来事もあるにはあったが、結果としては万々歳と言う他ないだろう。
夏から秋へ。
モンスターやドラゴンに襲われた魔法学園の再建に要した期間は僅か二か月。
ダンジョン都市で
しかし、そんなもの全て。
魔法学園の一般生徒には遠い世界の物語であるからして。
そして、彼ら彼女は再開することなる。
白を台無しにする――極度のストレスにより、変貌を果たした少年と。
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