266豚 迷宮の虐殺者

 シルバとは久方ぶりに会ったというのに、再開の喜びはすぐさま驚きへ変わる。


迷宮の虐殺者チーム・ヨロリンズ、全員が行方不明か?」


「ええ、全員でした」


「……まじかよ」


 シャーロットの故郷であるヒュージャックやダンジョン都市で、俺も中々に壮絶な経験をしたとの自負があるが、こいつはこいつで凄まじい経験をしたようだ。

 ていうか俺はむしろ、シルバの話の方が興味があるぞ。

 サーキスタの大迷宮。

 悪魔の牢獄デーモンランドはアニメでも何度かその言葉が出てきたけど、結局シューヤの物語と関わってくることがなかったからな。こう言ったらアリシアに滅茶苦茶怒られるだろうが、一度は観光がてら行ってみたいと思ってた場所でもある。


「でも未踏破区域アンタッチャブルに挑戦するなんて、まさに命知らずの独裁者ヨロズ様だな……付き合わされる仲間は溜まったもんじゃないだろうが」


「いえ、ヨロズの独断じゃなかったみたいですよ。迷宮の虐殺者チーム・ヨロリンズ構成員パーティメンバはリーダーの信望者って思われてますけど、あそこのメンバーはかなりアクが強くてそんなタマじゃないっすから」


 冒険者ギルドのトップ。

 S級冒険者はどこにいっても国賓待遇を受けられる力の持ち主で、奴らはそれぞれが何らかの偉業を達成した英雄だ。

 その中でもS級の独裁者ヨロズと言えば、闇の魔法に特化した命知らずで迷宮中毒の暗黒騎士死にたがり。そしてそんな独裁者ヨロズに付き従う迷宮の虐殺者チーム・ヨロリンズ構成員パーティメンバは皆、一線級の冒険者である。


「俺は噂でしか聞いたことないけど、詳しいのか?」


「冒険者時代、何度か奴らと迷宮の中で鉢合わせしたことがあるんすよ……その度にチームに勧誘されるんで、出来るだけ顔合わせないようにしてましたね」


「へえ、お前が独裁者ヨロズのチームに? やるじゃん」


「確かに金は稼げるでしょうが、あいつらと一緒にいると命が幾つあっても足りません。それに俺みたいな根無し草が正式にどこかのパーティに属するのも面倒なだけですから」


 ヨロズは影で独裁者なんて呼ばれるだけあって、冒険者ギルドの規則なんかを守る気は全くないらしいトラブルメーカー。だけど、迷宮攻略で得た報酬は全て次回の迷宮攻略費用に注ぎ込むため、冒険者ギルドに多大な金を提供する貢献者でもある。


「でもさあシルバ……あいつらってしょっちゅう失踪するんだろ?」


「まぁ、それっすよね。迷宮の虐殺者チーム・ヨロリンズっていえば失踪だったり、死亡しただったり、暗殺されたとか暗い話題ばっかりで……正直、あいつらが行方不明になっても今更、誰も気にも留めませんよ」


 そうなのだ。

 新しい迷宮が出来たと聞けば、碌な装備がなくても突入するリーダのヨロズ。パーティメンバが一人や二人欠けていても躊躇わず、そんなんだから定期的に死亡説が流れ……でも、皆が忘れた頃にひょっこりとギルドに顔を出す迷宮中毒者。

 そんなS級の独裁者ヨロズが率いるパーティ――迷宮の虐殺者チーム・ヨロリンズが消息連絡を絶った。


「だけど、今回は場所が場所でした。サーキスタの大迷宮なら、余りにもがありすぎるってものです」


「まぁ、確かにそうか。あそこで今まで何人のS級冒険者が死んでるんだよって話だよな……あ、お前も飲めよ。喉、乾いてるだろ。これは王室御用達の茶だぞ。お前、ダリスに戻ってきてばっかなんだろ。あのドルフルーイ卿か言ってたからな」


「……坊っちゃん。暫く見ない内に、人に気を使えるようになったんですね」

「おい。お前、俺を馬鹿にしてんのか?」


「馬鹿にするなんてとてもとても。龍殺しドラゴンスレイヤーの英雄で、公爵家の人間でありながら王室騎士になったお方を馬鹿にするなんて。とてもとても……」


「やっぱり飲むな。これは俺のもんだ」


「あ。ちょっと! 飲みますって……あー」


 しかし……ヨロズ、ヨロズ、ヨロズか。

 S級冒険者は全員有名人だから、奴らの多少の人となりは知識として知ってるけど、実際一体どんな奴なんだろうな。

 ヨロズは俺の頭の中にいるだけで――アニメの中では全く出てこない。

 あっちの世界で出てきたS級冒険者はたった二人。

 紅蓮の瞳ウルトラレッドとドストル帝国にいるだけだから――ワクワクする。この世界は、まだ俺が知らないことが多すぎる。


「それより坊っちゃん。俺がサーキスタで何をしてたか、聞かないんすか?」


悪魔の牢獄デーモンランドときて独裁者ヨロズ率いるパーティが行方不明。さらに、女王陛下がお前を秘密裏にサーキスタに送り込んだ。ここまでヒントがあれば聞くまでも無い。お前、救出隊セイバーの一人に選抜されたんだろ」


「……さすが、坊ちゃん」


「で、シルバ。S級様ヨロズに率いられた迷宮の虐殺者チーム・ヨロリンズ――全滅か?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る