262豚 偽りの王室騎士

「栄光の道が広がっている? 俺に王室騎士ロイヤルナイトとなる以外の選択肢を与えなかった貴方方が、よくそのようなことを言えるもんですね」


 女王陛下の剣に対して思わず口から出た言葉。

 それはもしかしたら、王室に対する俺の精一杯の抵抗だったかもしれない。

 女王陛下や王女殿下といった王室の方々にはとても言えないけれど、まだ同じ貴族出身のドルフルーイ卿なら立場は近いから。

 だって王室騎士の打診が幾ら光栄な話だといっても、俺はそんなもの受ける気はさらさら無かったんだから。


「……スロウ・デニング。お前は陛下と謁見した後、自ら王室騎士となることを選択したのだろう?」


「貴方も知っているでしょう。俺が今、どのような状況にいるか。俺はあの時、陛下の言葉に頷かざるを得ない状況に追い込まれただけで――ッ」


 僅かな刀身。

 至高の一振りとされる付与剣エンチャントソードの輝き。

 ドルフルーイ卿の手が剣の柄に掛かっていることに気付き、後ずさる。


「戯言を――二度と口にするな。選択したのは、お前だ」


「……」


「スロウ・デニング。お前にとって価値の無い一枚の布であれど……王室の白を手に入れるために血の滲むような苦行を行う者達も大勢存在するのだ」


 カリーナ姫を助け出した後にに対峙した王室騎士団の誰とも違う迫力。

 この男はやっぱり他の王室騎士とは次元が違う。


「はぁ、分かっていますよ。こんな愚痴、あの枢機卿達には決して言えませんから。その点で言えばまだ貴方でよかった。王室騎士となる俺の後見人に、あの枢機卿でなく貴方を選んでくれた女王陛下に感謝しなければいけませんね」


「相変わらず皮肉の多い……しかし、王室騎士の栄光を拒ぶ者がこうも立て続けに出るとは驚きだな。王室騎士団に馴染めなかったあのハイランド伯爵の放蕩息子でさえ王室の白を与えられた当初は誇らしげであったものだ。しかし、先の言葉。聞き捨てならんな。陛下が人質を取るだと? …………自惚れが過ぎるぞスロウ・デニング。あ奴は付与剣エンチャントソードの属性替えに相応しい責を与えられただけだ……」


「――付与剣の属性替えに手を出したのは俺です。そもそも平民で碌な教育を受けていないあいつが付与剣の構成をいじくれるわけがないでしょう」


「声を抑えろ。王城で騎士の品位を乱すような行為は許さぬぞ」


「品位など、俺から最も遠い言葉でしょう。ドルフルーイ卿、俺は少し前まではあの堕ちた風だったのですから」


 そう言い捨て、真向まっこうから白髪の騎士と対峙する。

 付与剣を持つ至高の騎士にして女王陛下に絶対の忠義を誓う男。アニメの中でもドストル帝国の三銃士に匹敵する、最強格の一人。


 そんな俺達をすれ違う者達が目を丸くして、口々に何かを囁き合う。

 王室騎士団における最も有名人と、突如王室騎士になった堕ちた風である俺がいるのだ。俺達がどんな会話をしているか興味津々。


「……確かに、スロウ・デニング。お前は堕ちた風だ。一人の従者と共に公爵家を放逐された失敗作。だが、お前は――クルッシュに顕現した黒龍を討伐し、龍殺しの名誉を得た。……王都がどれだけの騒ぎになったか、お前は知らぬだろう。姫殿下が私財を投げ打ち、だが、お前は自らの足で王都の敷居を再び跨いだ。そして、今。王室騎士となったあの堕ちた風が、王室の白が持つ価値も知らぬ公爵家の人間が生意気にもこの俺に意見をしている。だが、構わぬ。例えお前が王室に絶対の忠誠を誓えない偽りの王室騎士ロイヤルナイトであったとしても、騎士国家ダリスの民は若き龍殺しスロウ・デニングの帰還に沸いているのだから」


 ドルフルーイ卿は俺から目を反らさぬまま、息を吐く。


「だがな……陛下も公爵家の者を王室騎士にするなど、あの事件が起きるまでは考えていなかったのだ」


「……あの事件?」


「――ドストル帝国三銃士の一人。半人半魔の亡霊リビングデッドが迷宮都市にて、力の一端を解放しただ」


 ……嫌な汗が流れた。

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