261豚 その噂誰が流してんの?

 王室騎士と言えば聞こえはいいが、なんてことはない。

 その実態は、世間の事情に疎いお姫様の話し相手役ようなものなんだから。

 全ての切っ掛けは俺が帰還を果たしたあの夜に王室の方々が主催した晩餐会。そこでカリーナ姫の母である女王陛下からあの子に色々教えてあげてとお願いされ、やむにやまれず頷いた。

 ……いや、あれは強引に頷かされたと言ったほうが正しいか。

 形式ばらない晩餐会の中で、感覚としては軽い世間話のつもりだったんだ。しかし途中から王女の話し相手なら立場も必要だとか陛下が言い出した所で雲行きが怪しくなってきた。少し考えさせて欲しいと言おうとしたところで、陛下はじゃあそういうことだからと言ってあの場から急に消えてしまったのだから。

 

 騎士国家の女王陛下、エレイナ・ダリス。

 実際に彼女を目の前にすれば、自ずと分かることがある。

 たった一言。彼女は、いや、あの方は――だ。

 まっ、そりゃあそうだよ。

 アニメの中では南方の大国を一つに纏めるとあのシューヤさえ駒に数え、ドストル帝国に挑んだ女傑なのだから。

 陛下は俺が黒龍を討伐してから従者と共に姿を消した理由や、その行き先には全く興味を示さなかった。それどころか、彼女は俺の行動に大変共感しているらしいのだ。人に言えぬような冒険が若者を成長させるのだと彼女は笑い、陛下がそんな態度なのだから王城にいる貴族達も、あの王室騎士団長ヨハネ・マルディーニさえ俺に何も問い質せない。

 騎士国家のような大国を統治するには、あれぐらいの豪胆さが必要ということなんだろう。


「スロウ・デニング。お前は不満に思っていたようだが……陛下がお前を王城の外へ出さなかった理由……実際にを体感すれば理解出来ただろう……?」


「えぇ。正直、予想以上でした」


「仕方のないことだ……今、この国は俺の記憶にも無い程に


 ドルフルーイ卿の言葉通り、王城の外は凄かったよ。

 俺に向かって人が群がり、常に握手を求められ、身体を触られ、自分がまるで珍獣にでもなったかのような気分を味わった。

 しかし龍殺しドラゴンスレイヤーの帰還、その話題性だけではあの狂乱は生み出せない。

 俺が王室騎士の証である白マントを羽織っていたこと、さらに俺が陛下の守護騎士ガーディアン、あのルドルフ・ドルフルーイと共に歩いていたことが騒ぎを大きくさせたのだろう。

 それぐらいこの白マントと、俺の前を歩くは特別な存在なのだ。


「……囚われの身となった姫殿下を助け、帰還を果たした公爵家の龍殺しドラゴンスレイヤー。堕ちた風と呼ばれた……公爵家の人間が今は白マントを羽織り、王城から出てきたのだ。さらにお前が姫殿下直属との噂は既に王都全域に広がっている」


 しかしまあ、俺の顔を見れば飽きもせず説教たれるこの男。

 三日月の守護騎士ルドルフ・ドルフルーイ

 王室騎士団ロイヤルナイツ内部でも他者を寄せ付けない孤高の男。この国でたった一人、付与剣エンチャントソードをいつ如何なる場でも所持する厄介な男が、俺の一挙一動を細かくチェックするためやりにくいったらこの上ないんだ。


「故に、たるんだ身体などこの俺が許さない……理解したか……?」


「えぇ。王城の外に出たことで理解しましたよドルフルーイ卿――俺がカリーナ姫の守護騎士になるなんてありもしない噂が、既成事実のように広まっていることを」


「……反抗的だな。何故、そこまで拒む? 今、お前の目の前には姫殿下の守護騎士となる輝かしい未来レールが引かれているのだ。騎士国家の守護騎士はこの大陸において唯一無二の存在。――違うか、ドラゴンスレイヤースロウ・デニング


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