263豚 あいつ、どこにいんの?

「え……え!? あ……ああ、事件ですか……」


 あ、あぶねえ……。

 ドルフルーイ卿からあの事件の話が出ると考えず、思わずきょどってしまった。

 あの事件に俺が関わってるなんて……しかも中心人物に接触していたなんて女王陛下の側近に言るわけもなく、余計なことを言えばボロが出てしまいそうなので無表情を貫いた。

 それに俺はこれから、シャーロットと共に平穏な毎日を過ごす予定である。自分から面倒ごとに関わるのはご免なのだ。


「さすがのお前も、迷宮都市で三銃士の出現ともなれば肝が冷えるようだな」


「……ええ、ドストル帝国の三銃士が南方に現れるなんて今でも信じられませんよ。巷では三銃士の独断行動とも言われているようですが、三銃士の中で最も異質な半人半魔の亡霊リビングデッド。一歩間違えれば迷宮都市は消えていたでしょう」


 ていうか、アニメの中ではまじで迷宮都市は壊滅したんだよなあ。

 

 あれこそまさに戦争のきっかけ。

 半人半魔の亡霊リビングデッドの南方襲撃は俺が知る未来の中でも最もでかいターニングポイントだ。

 あそこで迷宮都市が壊滅していれば、アニメの史実通り南とドストル帝国との間で戦争が起きていただろう。あれだけの脅威を見せつけられては黙ってはいられないと南方四大国は結束し、北方の超大国に挑む羽目になるのだから。


「俺も詳細を知っているわけではありませんが……噂ではあのギルドマスターが相当巧くやったとか。次から次へと偉人が出てくる、やはり自由連邦は人材の宝庫ですね。嘗てヒュージャック難民の大半を受け入れたこともそうですし、これからもあの国は発展を続けるでしょう」


 迷宮都市の前面に広がる荒れ地で起きた闘争。

 闇に包まれたあの場で何が起きたかを正確に知る者は非常に少なく、後日談に至れば俺でさえ完璧に把握出来てはいないのだ。

 ただ言えるのはあの事件以降、迷宮都市の王として君臨していたS級冒険者。紅蓮の瞳ウルトラレッドが自由連邦において確固たる地位を築き、迷宮都市は三銃士を撃退した地としても知られるようになった。


「スロウ・デニング。あの時、消息不明であったお前は知らぬだろうが……三銃士が南方に現れたと聞き、この王都から逃げ出すダリスの民も大勢いたのだ。帝国の手が迷宮都市と同じく、この王都に及び戦場となる可能性があるのではないかと怪しむ者が続出した」


「……だから俺は貴方方が望むようにこの白マントに袖を通し、王城の外では龍殺し英雄として振舞る羽目になった。今ではもう王都に住まう誰もが、俺が王室に忠誠を誓っていると認識している。そしてこの先もカリーナ姫の守護騎士として、新たな王都の番人として君臨するだろうと考えているでしょう」


「そうだ。お前の帰還と共に、大勢の民も王都へ舞い戻る。全て、陛下の望み通りだ」


「でしたら、もう俺は充分役目を果たした筈です。これ以上、この茶番を続ける気持ちはない――」


 この白マント、それは王室を守るとの生涯の誓い。

 確かに貴族の大勢が憧れ、求めるモノだけど……王室騎士に求められる絶対条件がそもそも俺には欠けている。

 今の俺は王室に絶対の忠誠を誓えない偽りの王室騎士。 

 だというのに、俺は素知らぬ顔で白マントを羽織っている。


「……ほう、茶番と申すか」


「えぇ。だって、俺が偽りの王室騎士ロイヤルナイトとなった理由は貴方も知っている筈」 


 女王陛下の唐突な指名に誰もが驚き、大勢の王室騎士からは懐疑的な目を向けられている。

 中には公爵家の人間でありながら何故、女王陛下からの要請を受諾したのかと敵視する者もいる始末。

 だけど何故俺が王室騎士となったのか、本当の理由を知る者はとても少ない。


 それは女王陛下と王女殿下。

 王室騎士団長であるマルディーニと副団長たるドルフルーイ。

 そして——シャーロットだけが知っている。


「女王陛下の剣たる貴方に知らないとは言わせない。黒龍討伐の後、あいつはこの王城に来た筈ですから」


 クルッシュ魔法学園に現れた黒龍。

 さらに森の街道超えは、俺だけの力では達成出来なかった。

 平民の英雄ともてはやされた守護騎士ガーディアン筆頭候補。モンスターに襲われた学園を救った俺の隣にはあいつがいた。

 この王都で再び出会えると思っていたのに、どこにもいない。

 俺の味方であるカリーナ姫もロコモコ先生もあいつの居場所が分からないと首を振るばかり。

 だから俺は——。


「教えて下さい、ドルフルーイ卿。あいつは今、どこにいるのですか」


 騎士国家から消えたシルバの情報を知るために――王室騎士ロイヤルナイトとなったんだ。

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