246豚 英雄の帰還 後編⑥

 まずいまずいまずいぶっひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃい!

 ”裁きの光ジャッジメント”は王室騎士ロイヤルナイト達の力を合わせた儀式魔法の中でも特にヤバい! 光と闇は表裏一体とされるが、”裁きの光ジャッジメント”なんてまさにそうだからだ!

 アレは光を奪う魔法。

 俺みたいな魔法に慣れ、耐性のある人間ならまだいい。だけど、この場にいる一般市民が”裁きの光ジャッジメント”を浴びれば、視力を取り戻すまでに数か月は要する。

 発案者は、やはりあの枢機卿マルディーニか。

 ”裁きの光ジャッジメント”は……カリーナ殿下には一切の被害が及ばない。彼女は俺の目に見ても異常な程、光の精霊に愛されている。まさに偏愛、”裁きの光ジャッジメント”が発動してもこの場に存在する光の精霊が何としてでも彼女を守るだろう。


「旦那! 外に王室騎士ロイヤルナイトの姿を大勢確認! 数人とかそんなもんじゃねえ!」


 てか、ふざけんなよ王室騎士団ロイヤルナイツ

 あいつら、店内にいる一般市民を犠牲にしてまでカリーナ殿下を助ける気かっ! さすが王室命の狂信者と言われる枢機卿マルディーニが組織した騎士団なだけのことはある!


「奴ら、こちらに向けて何かの魔法をぶちまかすつもりだ! くそ、まさかこんなことになるとは!」 


 外の様子を確認してきた猟犬ハウンドの焦りが声となって伝わってくる。

 ざわざわと突然降りかかった現実にパニックになる人たちが出てきた。勇敢な人は立ち上がり、カリーナ殿下を離すよう詰め寄るが。


「う、動くんじゃねえ! お前達は人質だ! 余計な動きしやがったらぶっ殺す!」


 パニックになっていると言ってもさすがに猟犬ハウンドは本職。恫喝されれば一般的な王都の民なんてひとたまりもない。

 ……まずいな。猟犬ハウンドが言ってた魔法ってのは”裁きの光ジャッジメント”の前準備のことだろう。

 外には王室騎士団ロイヤルナイツ。中にはカリーナ殿下を人質にとった雷魔法エレクトリック

 はあ……全く、何でこんなことになったのか。


「何を焦っておる猟犬ハウンド。こちらには王女がおるのじゃ。堂々と外に出て行けばいい。この杖があれば、必ず先手が取れるのじゃから」


「焦るしかないだろう旦那! 白マントが二十以上、それにあのマルディーニがいる! 時間を掛ければ守護騎士ガーディアンもやってくるに違いない! ここから王都の外に逃げ延びるなんてもう不可能だ!」  


 俺の勝利条件は単純と言えば単純だ。

 王室騎士団ロイヤルナイツが魔法を完成させる前に、カリーナ殿下を雷魔法エレクトリックから奪い取る。

 だけど、その前に――何故、このような行動を雷魔法エレクトリックの爺さんは起こしたんだ?

 あいつは敵キャラであり救う価値の無い男、それは紛れのない事実なんだけどさ。


「おい、だから誰も動くんじゃねえって言ってるだろ! それに、この金髪貴族のガキ! 何どさくさに紛れて逃げようとしてんだよ!」


 というか…………おい。

 俺を無視するんじゃねーぞ! 折角立ち上がってカッコつけたのに俺の存在が空気じゃねーか! 

 王室騎士団ロイヤルナイツの登場と尊い王女様リトル・ダリス。さらに刃物を振り回す猟犬ハウンドがパニクるせいで、俺の存在が皆の頭の中から完全に消し飛んでしまっているようだった。

 ドンッ! ……ドン!

 だから俺は床を思いっきり蹴っ飛ばした。

 床ドンだ。食べ物持ってこい! って意味の床ドンじゃなくて俺に注目しろ! って意味の床ドンだ。まあ同じ意味か。

 しかし効果は抜群だった。

 怒濤の床ドン二連続で店内の注目を再度、俺に集めることに成功したのだから。


「っ、そうだこっちには公爵家デニング竜殺しドラゴンスレイヤー! どうしてこんな目に、ああああもう俺は終わりだ! 旦那! どうするんだよこの状況。全部、てめぇのせいだ! クソ、俺も仕事の完遂なんて気にせず監獄ガスパニックと共に逃げておけば――」


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