245豚 英雄の帰還 後編➄

  今、祖国の王女が俺を見据えている。

  死にかけだったあの時と違い、確かな存在感でそこにいる。ふわふわの金髪が輝き、もう体型とかどうでもいい。こうして目にすれば、はっきりと分かる。

 騎士国家の聖なる光。

 大陸南方で現存する最も尊い王族の家系。

 彼女こそが、この国の王女リトル・ダリス。圧倒的な存在感に恐れ戦いているのは俺だけじゃない。店内の者たちが動けないのは無意識に格の違いを感じているか。

 俺だってそうだ。もう、彼女以外は目に入らない。

 その美しさに、じゃない。所作の一つ一つ振る舞いが完成されている。”囚われの姫”という役柄を彼女は劇場の役者のように完璧に体現していた。王族であるシャーロットの可憐さや、アリシアの高貴とも違う。

 民が想像せし、王族のあるべき姿。

 御伽噺のような存在として、そこにいる。

 俺が風の神童として生きた頃、どこかで聞いたことがあった。

 、と。

 殿下に見惚れていると、声が聞こえた。衝撃と共に店が揺れ、大音声が流れ込む。


『王都に紛れ込んだ下手人よ。既に其方そのほうらが逃げ込んだ場所は我ら、王室騎士団ロイヤルナイツが取り囲んでいる。だが、投降の意思が無いのであれば――』


 その声で、俺は何とか我を取り戻した。

 店内にいた者たちもまた同じ。だけど皆が予期せぬ言葉に?マークを顔に浮かべる。王室騎士団ロイヤルナイツ王室騎士団長ロイヤルバトラーの名に一般客はまたも混乱。何故、王室騎士団が出て来るのかと理解不能。王室騎士でなく、王室騎士団。

 そこで漸く認識に至る。

 あの神々しい女の子はもしかすると、とんでもない大物なんじゃないか、と。


『――王室騎士団長ロイヤルバトラーの名の元に。裁きの光ジャッジメントを覚悟せよ』


 だが、そんな王室騎士団からの呼びかけであっても王女を捕らえている雷魔法は低く唸る。恐れるに在らずと、奴は理解している。むしろ、”掛かってこい”と言うように敗北者の武器を持つ老人は薄く笑った。


 だけど、この場で多分。

 俺だけは、戦慄していた。

 ……聞き間違いじゃないよな?

 俺の記憶に蘇る、あの大人気アニメの最重要キャラクター。

 アニメ版主人公シューヤ・ニュケルンと幾度も衝突を繰り返したダリスの支配者。王室騎士団長ロイヤルバトラーの身分を持ち、ダリス王室全体の守護者として君臨するヨハネ・マルディーニの声に聞き逃せぬ言葉があった。


  ……ちょっと、待てよ。 

 ”裁きの光ジャッジメント”って言えば!

 ――王室騎士ロイヤルナイトが数十人掛かりで行う儀式魔法の名じゃねえか! 

 あの狸爺!

 まさか、王女を助けるためにこの場にいる俺達全員を犠牲にするつもりか! 


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