244豚 英雄の帰還 後編④

 確かに雷魔法の目的って、精霊の発掘だよな? あいつが何故、俺なんか? それにしてもなぁ、まさかこの状況――俺が原因なの?

 うーん。

 こういう時、真っ先に出て行った方がいいのか。それともちょっと手を上げて、存在をアピールしていいうのか。


「……ぶひ?」


 ん? 何だ何だ。

 シャーロットが早く助けましょうと、俺の服を引っ張っている。

 俺は無言でシャーロット愛用の杖を奪い取った。するとふくれっ面、不満そうな仕草を見せるが何でやねんと言いたい。君、まだ魔法初心者でしょ。ちょっとピカって光らせるぐらいの魔法しか出来ないでしょ。

 シャーロットは魔法の熟練度をゲーム風に言えばレベル1。魔法使い成りたてが雷魔法エレクトリック猟犬ハウンド相手に立ち向かおうなんてどこの勇者だよ。

 最近、暇さえあれば魔法の練習でピカピカしているシャーロットを見て俺は一つの傾向に気付いていた。ここだけの話、王族でありながら魔法が使えなかった彼女はとんでもない魔法コンプレックスを持っている。

 魔法に目覚めた今。

 遂に私の時代来た、と。シャーロットは内心思っている節がある。自分の正体は本当は王女なのだから、特別な力があるに違いないと思っている危険なタイプ。

 いかんいかんよ。君の無謀な行動は俺の心臓にマジで悪いのでやめてほしい。


「その方を離せッ、君たちのような者が触れていい方ではないぞッッ!!」


 おっと、シャーロットの魔法コンプに時間を割いてる場合じゃなかった。

 今は一分一秒だって惜しい状況なのだ。


 だって、数ある選択肢。

 王城から急いでこちらに急いでいるだろう光の大精霊レクトライクル、ダリス王室を守るべき王室騎士ロイヤルナイト、女王の傍にいるべき今代の守護騎士ガーディアン、もしくはアニメ版主人公たる救世主シューヤ・ニュケルン、それとも――。

 今、この瞬間が俺の運命をわかつ分岐点。

 あと数十秒もすれば外から突入してくるだろう王室騎士ロイヤルナイト達に全てを任せるか、何もせず事態を見守るか。


「ぶひひひひ」


 余りにも大きすぎる選択、即断は出来ない。そう思っていると――。


「スロウ様! だから歯ぎしりはやめてください! お行儀悪いですよ! それに私の杖、返して下さい!」


「あー。シャーロット、声でかすぎ」


「え? ……あ、ごごご、ごめんなさい! スロウ様、あ、違う! え、でも! どうしましょう!」


 彼女の声に驚いて店内の誰もがこちらを見た。

 ……なるほど。やっぱり、そうなのか。

 でも――そうだった。いつだって俺の道は――。

 俺の未来を決めるのは、いつだって君なんだねと一人で納得。

 もろに俺の名前を呼んで、それが全ての引き金。

 騎士国家のふわふわ金髪王女様がえ? って顔してこちらを見て、俺を捉えた。

 俺は立ち上がり――ゆっくりと目深に被っていたフードを脱ぎ、姿を世界に晒す。


「その顔――知っている、知っているぞ! この国に来てから嫌というほど目にしたものだ! まさかこの小娘を餌に呼び出す手間すら省けるとは!」


 雷魔法がぎらついた目で俺を見て、猟犬が動揺する。

 喚き立てる言葉など、聞く価値もなく。

 一番の難題は雷魔法が持つでかい杖だが、対処法を俺は知っている。

 あれは名無しの怪物パレ=ドール

 S級冒険者トップランナーとして生きた敗北者の置き土産。

 火の大精霊エルドレッドとコンビを組み、暴虐の限りを行ったシューヤの先輩とも言うべき存在を殺すための英雄の武装シェルフィード


「お前の身を渡せば、吾輩のような人間でも祖国に戻れるとな! その身は実験動物モルモット、貴重なサンプル! だが祖国に売り飛ばす前に、噂の魔法の見物といこうか! 吾輩の雷魔法エレクトリックとお前の全属性エレメンタル! どちらが上か心行くまで仕合おうと言っているのだ精霊の寵児よ! 無論、答えは見えているが学者故の探求でな――ッ」


「……お久しぶりです」


 必要最低限の情報は手に入れた。 

 首謀者は雷魔法エレクトリック、目的が俺であるのならば躊躇う必要はどこにもない。

 引き返す道はもうどこにもないし、彼女を救うのは俺以外に


お任せあれイエス――我が麗しの王女殿下ユア・ハイネス


 願望ではなく事実として――敗北者の武器パレ=ドールを手に入れた雷魔法エレクトリックを打倒するのは大精霊の加護を受けた者達ではなのだから。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る