英雄の帰還:後編

241豚 英雄の帰還 後編①

 倒れ込むようにして、俺たちの憩いのお昼に飛び込んできた四人のお客さん。もうお昼の営業時間は終わったんだぞ! と言いたいが、その姿を見てビックリ仰天。

 正体を知る俺だけじゃなく、店内にいた者達も異様な雰囲気に包まれる彼らを見て時計の針が止まってしまったかのように固まっている。

 ……うーん。

 アニメの中で見覚えのある敵キャラ二人に、現実で見覚えがある二人。

 雷魔法と猟犬が、それぞれカリーナ姫と貧乏っちゃまを捕まえている。

 面子の組み合わせがまずいのは当然として、雷魔法が持っている武器にもちょっと問題がある。

 この状況はあまり、よろしくないなー。


「……ぶひぶひぶひぶひ」


「ス、スロウ様……どうしていきなり歯ぎしりされてるんですか……みっともないから止めて下さい……そんなことより、あの人たち! スロウ様のお友達の――!」


 小声でひそひそ声を交わす俺とシャーロット。

 シャーロットもいきなり店内に入ってきたあいつらにくぎ付けである。


「ぶひぶひぶひぶひ」


「だから歯ぎしりは行儀が悪いので止めて下さい……! ……さっき外でどんぱちしてる音が聞こえてきましたけど、きっとあの悪そうな人たちに追われてたんですよ! ……でも見て下さいあの女の子。何だかキラキラしてます、きっと高貴な方ですよ! 絶対にお金持ちだと思います! 髪とかサラサラでツヤツヤですから!」


 黄金のふわふわとした髪を持つカリーナ姫が半泣きで立ち上がる。

 可哀想に。人生で転げたことなんて滅多にないんだろう。頭からゴチ―ンと倒れたから、お姫様のおでこが真っ赤になっている。かなり痛そうだ。


「あわわわわわわわわ」


「ほら……アリシア様もうんうんって頷いてます! あの子、すっごく高貴な方なんですよ……だから助け出さないと……」


 アリシアはカリーナ姫を見て硬直。

 シャーロットはカリーナ姫を高貴な人だーって決めつけているけど、この国のお姫様だしね。当り前である。そんじょそこらの高貴な娘よりも高貴なのである。

 シャーロットも高貴な筈のお姫様なのだが、俺と一緒に俗世にまみれすぎているので、高貴さは薄れつつある。

 可哀想に……シャーロット。君はもう、俺と同じ世界の人間なのだよ……。

 おっと……こんなことシャーロットに言ったら怒られちゃうな。

 ていうか……うん。

 これ、もうあれだろ。

 俺の帰還、絶対バレてただろ。

 カリーナ姫とか貧乏っちゃま、誰かに誘導されてこの店に来たんだろ。

 雷魔法とか猟犬に追われながら俺のいる場所に辿り着くってどんな偶然だよ! 宝くじってレベルじゃねーぞ!

 ていうかさ、ちょっと待てよ。 

 何で貧乏っちゃまがいるんだよ! 王女様と一緒なんてキャラじゃないだろお前! モブキャラだろ! アニメでも全く出てこなかっただろ! 今更メインにチェンジしようって言ったって遅いんだよ!


「あわわわわわわわわわ」


「え? あ、あれ? スロウ様! アリシア様が石像みたいにどんどんカチカチに固まっていきます……!」


 まだカリーナ姫を見て固まってるアリシア。

 ああぁ……可哀想にサーキスタの王女様。お前はまだ気付いてないだろうけど、俺の帰還がバレバレってことはお前に懸賞金が渡ることはないってことだ。

 ……ご愁傷さま、ちーんである。

 言っとくけど、俺は悪くないからな。


「ぶひひぶひひ」


「……だからその変な歯ぎしりみっともないです! ……え、ちょっと笑ってます? どうしてこの状況で笑えるんですかスロウ様……!」


 俺は頭の中で、哀れな同盟国の第二王女様に手を合わせたのであった。


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