248豚 英雄の帰還 後編⑧

魔導大国ミネルヴァに来いスロウ・デニング。この国の魔法学園クルッシュとは比べものにならぬ施設、貴様のように魔法の才に恵まれし学徒を南方中から集めし学び舎も――悪いようにはせん、この国におれば貴様の才は腐る一方じゃぞ」


「俺がドン引きするぐらいぶっ飛んでるな爺さん……まさか俺を勧誘にする目的だけで王女誘拐なんて馬鹿げた真似を考えたのかよ。メリットとデメリットが全く釣り合ってないぜ。爺さん、算術は苦手か?」


 でも……ああ、なるほどな。

 漠然とだが、大体の事情が飲み込めたよ。俺の脳内にバラまかれた雷魔法エレクトリックに関する幾つものピースが繋がっていく。

 この雷魔法エレクトリックの爺さんは異端に挑戦したことによって国を追放された存在だ。アニメの中でも祖国復帰の条件として課されたマジックアイテム、シューヤが持つ規格外のあの水晶を執拗に求めていたっけ。

 何てことはない。

 祖国への帰還として、求める対象が水晶から俺になったってだけ。

 しかし俺はシューヤの水晶の代わりかよ。何だか微妙な気分だぜ。


「悪いけど、答えはノーだ。魔導大国ミネルヴァというよりも、爺さんが言ってるのは魔導協会アカデミーだろ? 大国の干渉を受けない冒険者ギルドと同じ独立機関を謡いながらも、アカデミーが魔導大国ミネルヴァの操り人形なのはこの国の子供でも知ってる事実だ。あんな場所に俺みたいな人間が向かえば、何をされるか分かったもんじゃない」


 だけど確かに。

 全属性の魔法使いエレメンタルマスターなんてまさにあの国が欲しがりそうな才能だ。

 この爺さんは魔導大国ミネルヴァの誰かから人づてに聞いたのだろう。俺を連れて行けば、恩赦によって国に戻れる。魔導協会アカデミーに復帰出来ると。


「爺さん。俺を魔導大国ミネルヴァに連れて行ったアンタにどんな見返りがあるのか知らないが、それは王女誘拐なんて大罪に釣り合うのか? たった一人の個人が大国に喧嘩を売る、それはどんな英雄録だって末路は予々かねがね悲惨なもんだ。それともまさかアンタのバックにはもっと大きな何かがいるのかな」


 これは多分、魔導大国ミネルヴァからのメッセージでもあるに違いない。

 祖国への帰還を望む爺さんを捨て駒の宣告者メッセンジャーに仕立て上げた。騎士国家ダリス魔導大国ミネルヴァのどちらかを選べとの二択。相応の地位は保証するってやつかな、だってこの爺さんが持ってる武器は魔導大国ミネルヴァが所有する逸品の一つ。英雄の種シェルフィードをあちらの国の宝物庫から強奪出来たのも、偶然ではなく必然。俺を連れて行くには、それだけの武器が必要と思われたから。まっ、あちら側も爺さんがまさか王女を誘拐するとまでは考えていないだろうけどな。

 そう考えると、一気に爺さんが哀れになっちまった。こいつもある意味被害者かもな。

 魔導協会アカデミーを追い出された狂人は冷静な判断も下せない程、盲目に。

 失意の最中、同盟国の王都に対して真正面から敵対行為を行うなんて暴挙に手を出さざるを得ない状況に追い込まれた。

 何か事を起こして騎士国家ダリスが同盟国たる魔導大国ミネルヴァに文句を言おうにも、雷魔法エレクトリックは既に国を追放された身だ。あちらさんとしては何とでも理由を立てられる。


「それにしたって、やり方が幾ら何でも強引すぎるんじゃないか爺さん。さすがにここまでの騒ぎを起こされると、王室騎士団ロイヤルナイツも黙っちゃいない。あいつらから嬲り殺しの目に遭うのも自業自得さ……ん?」


『――公爵家デニングの少年。私だ、マルディーニだ。君がそこにいるのは分かっている。王都に向かっていた君達の動き、我々は全てを把握していた』

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