249豚 英雄の帰還 後編⑨

 枢機卿マルディーニの声にはっきりと焦りの色が滲んでいた。

 というか……あいつら、俺が中にいるのやっぱり気付いていたか。

 はあ、成る程ね。光の大精霊レクトライクルだけじゃなく、王室騎士団ロイヤルナイツもグルってことか。あいつらにしてみれば、もしかしたら俺が即座に殿下を助け出すかもみたいな期待があったんだろうな。いつまで経っても音沙汰がないから。たまらず声を掛けてきたってところか。

 

『君が何も行動を起こさぬようなら、こちらとしても姫を助け出すために少々手荒な真似を実行せざるをえん』


「我輩はこの王都を出るまで王女を解放する意思は一切なく、貴様を力づくで祖国まで連れて行く決意に曇りも無い。さらに祖が求めるその才能がいづれ程のものか、興味もある」


龍殺しドラゴンスレイヤーを見事達成した君の力なら――何があろうと、少女の一人ぐらいは守れるだろう。君は、そこにいる水龍の姫ミス・サーキスタを守りたまえ』


全属性の魔法使いエレメンタルマスターの名を持つ少年よ――王女の解放を望むなら、力づくでもぎ取ってみせるがいい』


 枢機卿マルディーニ雷魔法エレクトリックの言葉が同調して、俺の中に入り込む。

 全く……何て奴らだほんと。

 勝手に期待して、勝手に失望しやがって。こっちの意思を何だと思ってるんだよ。俺は頭の悪いぶひぶひオークじゃないんだぞ。

 でも枢機卿マルディーニの声の直後に王女の身体に大きな震えあり――カリーナ殿下は王室騎士団ロイヤルナイツの野郎共がこれから行うであろう魔法に気づいている。それだけじゃなく、王室騎士団ロイヤルナイツがアリシアの存在を把握していることからも、俺たちの行動はあいつらに全て筒抜けだったって訳だ。

 何だかなぁ、ここまで頑張ってバレないよう行動してきたのに……俺たちの頑張りは全て無駄。道中俺たちのことに気付いた素振りを見せた一般市民なんかいなかったのに、一体にバレていたんだろうな……。


 まぁでもこれで、王女の来訪は――全て仕組まれたものだと確信出来た。

 あいつらが俺の帰還に合わせて下らない準備をする時間は充分にあって、その目的は多分……。

 俺と王女様の劇的な出会いの演出。これは運命だと王女に錯覚させ、俺に依存させる。そんで、守護騎士ガーディアンへの道へ。そんなとこだろ。

 これがシューヤなら、あいつ自身がこれは運命だぁぁ! とか言い出すかもしれないけど……残念。俺がそこまで真っ直ぐの性格をしていたら真っ黒豚公爵なんてやってないんだよ。それにあの枢機卿マルディーニが考えつきそうなことなんて大方、予想がつくからな。


 しっかしまぁ、外に待ち構える枢機卿マルディーニ率いる王室騎士団ロイヤルナイツ然り、内に潜む魔導大国ミネルヴァからの来訪者メッセンジャーであるこの爺さん然り。

 ……俺もいつの間にか随分な人気者になったようだ。


「今の声、何よ。水龍の姫ってもしかして私のこと? あいつら、何をしようって言うの? それにシャーロットさん、いつまで頭のたんこぶ抑えてるのよ! もう! 私が水の魔法で癒してあげるわよ」


「おい、貧乏っちゃま。お前、いつまで死んだ振りしてんだよ。ほら、立て立て」


「……す、スロウ様。もしかして王室騎士団の方々は――」


「――あぁ、奴らは気付いてたみたいだな。それより今はお喋りは無しだ。今の事態がどれだけ、深刻か分かってるだろ?」


 あいつは険しい顔でアリシア達の元へ。その際に小声で「殿下はスロウ様、貴方に会いたがってました」何て、呟きを残しやがる。……今、この場で責任と情けなさを痛烈に感じているのはあいつだろうな。ビジョンは使われたんだろう、多分カリーナ殿下を俺と引き合わせるための舞台装置として。んー、もしかしたらあいつが殿下をお忍びで外に連れ出したのかな? 見張られてるともしらずに、ここまで連れてくるのがあいつの役目?

 まあ、いいや。後で話せば分かることだ。

 雷魔法エレクトリックの背後にいるお姫様が縋るような目で見てる。

 おっと、今はこっちが最優先。しかしくそ、可愛いなぁ殿下。シャーロットやアリシアとは比べものにならないお胸を持っていらっしゃる。そんな彼女が助けを求めてるんだから、やらないわけにはいかないて。


「さて、爺さん最終通告だ。本当に殿下を解放しなくていいのか? 俺はアンタのためを思って忠告してるんだぜ」


「ほう、吾輩のためと抜かすか。ならば、王都を抜け――」 


「――違うって。その年で屈辱的な敗北をしたら、暫く立ち直れないぜって言いたいんだよ雷魔法エレクトリック



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