228豚 俺の真っ青ダイエット生活
王都へと続く野原の街道。
なだらかな斜面を己の肉体のみ一気に駆け上がる人間がいた。
「ふっ……へふっ……へふっ……ぶひ……ふぁ……ぶひっ……ふぁへふっ……」
俺だ。
涙を流しながら、俺は毎日毎日大勢の人間や馬、そして車輪で踏み固められたであろう地面を蹴り上げていた。
足はやっぱり鉛のように重たいけれど、もうあの時の俺とは違うのだ。
全知全能のアニメ知識を手に入れたあの日の俺。
クルッシュ魔法学園で今みたいにダイエットに励んでいた時の俺は豚だった。……いや、正直になろう。あの頃の俺は大豚、いやオークだった。実際に影でリアルオークなんて不名誉な
「へふっ……ふ……っ、っふぶひ……ふぁ……ぶひっ……ふぁ……」
けれど今の俺を見てオークなどという奴はいないだろう。
あの時程足が重くないし、脂肪に取り付かれた醜い腕が見えるわけでもない。
今の俺は限りなく人間に近いのだが……何故か走らされていた。
クルッシュ魔法学園から森の街道を抜けてヨーレムの町に辿り着き、そこから遠路はるばる王都まで続く道のりをただひたすらに走らされた。
真っ黒豚公爵から真っ白豚公爵へとリベンジを誓ったあの日。
確かに俺はダイエットを通じて細マッチョのイケメンになろうと考えていた。
けれど、このランニングは俺の意思ではなかった。
そもそもクルッシュ魔法学園で再建に励んでいた俺にダイエットしようなんて意思はこれっぽっちも存在していなかったのである。
それなのにどうして走っているのかというと。
「ぶっひぁぁぁぁぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ。もう嫌だああああああああああああああああああああああああああああああああ」
ああああああああああああああああ!
正直、理解不能だよ!
何で今更こんなことをしなければいけないんだよ!
クルッシュ魔法学園で再建に励んでいた俺は確かにデブに近い何かだったよ! ああ、認めてやる! でもな、街道の上で大勢の視線に晒されて、見世物になりながらダイエットに励まされるほどの豚じゃなかった筈だ!
程ほどのデブだ!
デブ、いや、ぽっちゃり! そう、俺は紛れも無くぽっちゃり系男子だった!
オークでも、大豚でも、豚でもない! 巷によくいるぽっちゃりが何故痩せる必要があるんだろうか!
全ては俺が出頭するときの絵面を異常に気にするアリシアの思惑だ!
英雄がデブだったらダリス可哀想とか、訳の分からない理屈に押し切られ、俺は遠路はるばるひたすら走り続ける羽目になったのだ!
ふ、ふ、ふざけんなよぶっひぃぃぃぃぃぃいいいいいいいいい!
ダリス可哀想とかまじで意味分かんないから! つうかさっさとお前は国に帰れよ! いつまでこの国で遊んでるるんだよお前は!
だから俺は諸悪の根源を思いきり睨みつけたやったんだ!
ぎろり。
「……何ですのその生意気な目。ま、さ、か。私に文句があるっていうんですの? ほら、ダッシュダッシュ! 睨む元気があるんだったら足動かせなさい! ほらどんどん走りなさいってば!」
俺の横では立派な体躯の馬に騎乗した小柄な女子が声を張り上げていた。
「王都に着くまでにそのたるんだ脂肪を減らす! ほら! 私のダイエット計画は完璧ですから! 走るったら走るの!」
「アリシアお前、まじで。ふざけんな……、ぶひぃぶひ…………」
「そのぶひぶひも禁止って何度言えば分かるんですの! 次言ったらお尻蹴りますから!」
「呪ってやる、お前は恩を仇で返す最悪の女だ……」
「ほら! 足が止まってる! いい感じに痩せてきたんだから、頑張りなさい! 絶対に豚のスロウ、貴方は後で私に感謝することになるから! 間違いないから!」
やっぱりふざけんなぁぁぁぁああああ! 何でこいつにそんな指示を出されないといけないんだ!
それにこの押しの強さは一体何なんだよ! お前は暴君かよ!
これが生まれた時から王族ってやつなのか?
そういえばアニメの中でもあいつ、苦労してたなあ。
当然、アニメ版主人公であるシューヤのことだ。
あいつ、学園では奴隷みたいな扱い受けてたもんな……。
そっか。
だから今アリシアから解放されて、つい羽を伸ばしたくなっちゃったんだね……だからメイドに走っちゃったんだね……。
メイド……従順そうな子だったもんね、こいつと違って……。
「ぶひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃもう、嫌だぁぁあああああああああ」
「だーかーらその気持ち悪い叫び禁止って何度言ったら分かるんですの! ほら、私だけじゃなくて皆驚いてる! シャーロットさんも何か言ってあげて! こいつ、私の言うこと全然聞きやしないんだから」
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