Ⅶ 豚公爵に転生したけど、愛しのあの子がヤンデレ気味で
227豚 「英雄の帰還」プロローグ
これは、少しだけ未来の話。
●
黒焦げになったテーブルを筆頭に、一瞬にして
「
首元に充てられた鋭い刃からビリビリとした刺激を感じる。だけど、その手を力いっぱい振り払うわけにはいかなかった。
周りには手練れらしき、武装した男が幾人がいる。でも、それだけじゃなくて、杖を持つ魔法使いさえも襲撃者の中には混じっているのだから。
「その方を離せッ、君たちのような下賤な者が触れていい方ではないぞッッ!!」
「殺すなよ、そのガキは貴族だ。人質にすれば金になる。さて、これで俺たちの関係も終わりに近いな
床に組み伏せられた金髪の少年がもがき、叫んでいる。
こんな自分のために、一芝居を打ってくれた彼には本当に悪いことをした。もしこのまま自分の身にもしものことがあれば、彼の
けれど、必要だと思ったのだ。
運命に打ち勝つために、あのお城から逃げ出さないといけないと思ったのだ。
彼女が王城眼下に
運命は自ら掴み取らねばならないと、ダリス王城をねぐらとしている
「……っ」
そして、騎士国家を導く次期女王は常々己の運命を呪わずにはいられなかった。
この王城には嘘つきが多すぎて、彼女には身の回りに心の底から信じられる者などいなかった。
そんな中、外の世界を自分に教えてくれた裏表の無い平民から聞いた一つの話。
――シルバ、貴方の言うその方は今、どこにいるの?
――俺の口からはとてもとても。
――私、王女なのだけど。
――俺は平民ですが。
さっぱりとした裏表のない彼の性格は非常に好ましかった、平民だけど
「その顔――知っている、知っているぞ! この国に来てから嫌というほど目にしたものだ! まさかこの小娘を餌に呼び出す手間すら省けるとは!」
「あぁ? 突然発狂してどうした
それに、この再会にはきっととても大きな意味がある。
だって、これは奇跡なんかではなく、自分で掴み取った未来なのだから。
例え自分の肩を掴んだ男が裏の世界で名前を馳せた男であろうと、新たな魔法体系を築き上げた天才であろうと、魔道大国にて
あの頭の固いマルディーニ枢機卿すら渇望している若き英雄。
平民の成り上がりとして、市井の中であれ程の人気を誇っていたシルバを凌駕する程の喝采を得た若き貴族の魔法使い。
クルッシュ魔法学園には多くの子弟が生活しており、それは貴族に限った話ではなかった。あの学園には――大勢の平民さえも暮らしていたのだ。
今、ダリスに蔓延する鬱憤とした空気を吹き飛ばした彼を利用すれば、この国は再び成り上がる。それがマルディーニ枢機卿の考え方であったが、彼女の思いはダリス王室を支え、王室騎士団長を兼任する偉大な老人とは少し違っていた。
デニング公爵家より先に彼を見つけ出すために、過去を見ても類を得ない莫大な額を王室は拠出した。幾千枚の手配書を用意させ、どれだけの偽りに満ちた目撃情報が届けられたか分からない。
幾夜彼との再開を夢見たか、分からない。
それがまさか、こんな街中の、こんな何の変哲もないらしい店内で。
きっとこれが光の大精霊が言う運命に打ち勝ったというものなんだろうけど……。
だけど、どうにも可笑しな状況なんだ。
だって、彼の右側に座っている少女は紛れもなくあの子だ。
大国サーキスタの第二王女。アリシア・ブラ・ディア・サーキスタがどこか不機嫌な顔で座っている。
カリーナはその顔には見覚えがあった。
アリシアという少女はちょっとした挨拶の場でも勝気で威圧的で生意気で、非常に苦手な性格だったから記憶に残っているのだ。
そしてアリシアとは反対側には予想通り。
彼の従者である少女がどこかあわあわした顔で、固唾を飲んでこちらを見つめていた。
……彼とずっと一緒にいたであろうそのポジションは羨望よりも苛立ちが募る。
「お前の身を渡せば、吾輩のような人間でも祖国に戻れるとな! その身は
だが今はあの従者より、この肩に手を掛けるクソ爺が何よりも苛立たしいから。
カリーナ・リトル・ダリスは生まれついての王族だ。
シャーロット・リリイ・ヒュージャックのような亡国の姫とも。アリシア・ブラ・ディア・サーキスタのような王権が崩壊した大国の紛い物でもない故に。
両手を握りしめて、彼女は勇気を出して、息を吸い込んだ。
緩やかにウェーブした彼女の黄金に輝く髪が、さらりと揺れる。
「この不届きものをっ、どうにかしてッ」
お供を伴った彼女の小さな冒険が、停滞に沈んでいた大国を取り戻す第一歩。
大国の女王として生きる未来、重すぎる宿命を定められた南方一の
そこにはやけに整った容貌の少女を両脇に揃えた誰かがいた。
テーブルの周りにはぐしゃぐしゃになった料理が幾つも零れ落ちている。
「貴方にならっ、出来る筈です! ドラゴンを単騎で屠った貴方なら――っ」
「まあ……お望みとあらば」
さあ、失われた時を取り戻す時がやってきたのだ。
少年は顔を覆い隠していたフード付きの服を放り投げると、懐から杖を取り出し。
「
もう一度、あの時のように彼女を安心させるよう、微笑んでみせるのであった。
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