風のデニング公爵家
251豚 ――王都ダリスは揺れていた
日常は速やかに非日常へと転換。
傭兵の決起により王都ダリスは衝撃に揺れたのは紛れの無い事実であったが、既に彼らの大半は捕まえられたか、戦意喪失し逃げ出している。
ここは大陸南方が四大国の一つ。
騎士の国とされるダリスの首都なのだ。
王室が住まう都市の兵士は精強にして統率に乱れも無い。日頃から練度を高めているため、反乱分子百人程度の対処等、何の問題もなかった。
「あれだけの白マントが一同に会するなんて滅多にないぞ!」
「お前たち黙って歩かんか! 出来るだけ離れろとのお達しがあの公爵家より出ているのだぞ!」
――筈なのだが、未だ怒号収まらず。
大勢の兵士が慌ただしく石畳の上を駆けずり回り、鳴り続ける鐘の音は異常事態を示す証と言って差し支えないだろう。
公爵家直系が率いる軍隊が一つの意思の元に動き出している。
彼らの目的は王都ダリスに生きる者たちを安全な場所に避難させること。
竜巻と雷鳴が遠目に見えたかと思うと、いつしか晴空は曇天に変わっている。
二人の力ある魔法使いが生み出した魔法。彼らがいる戦場より溢れ出す攻撃の余波は止まらない。あの激震地から民を出来るだけ離れさせるために大勢の兵士が投入されているのだ。
「
「噂に惑わされるな。ほら、とっとと前を向いて歩け!」
「おい兵士! お前らは向こうに行かなくていいのかよ! 1人でもかき集めたい状況なんじゃないのか!」
大勢の民衆たちはあちらで何が起きているのか見極めるためにつま先を伸ばしていた。
彼らが見つめる遠方。
三階、四階にもなる建物の屋上には、白マントを羽織った者達の小さな人影が見えた。
白外套を羽織る彼らはこの国にて
クルッシュ魔法学園でも大人気の、成績が極めて優秀な者達が辿り着く頂点だ。
彼らが守るのは光のダリス王室。
大陸中央部に存在した大国ヒュージャックが滅亡した後は南方において最も尊いとされる王の家系。
そして、この国に住まう者であれば誰でも理解している。
あれだけの
守るべきダリス王室があの竜巻と雷鳴、魔法使い同士の闘争に巻き込まれている。
「うわ! この場所まで飛んでくる!」
「おい、ここまで瓦礫が飛んできたぞ! もっと離れないと巻き添えを食らう!」
どこからともなく飛来した拳大の石が地面に突き刺さり、悲鳴が上がる。
空を見上げれば、瓦礫やゴミまでが風に流され浮いていた。数多くの軍属貴族が屋根に上り、飛来物を一つ一つ取り除いているのだが追いつかない。
「ここはダリスの王都、百年にも渡る平和を維持している鉄壁の要塞だぞ」
「一体誰が戦っていると言うんだ。命知らずな奴がいたもんだよなぁ」
遠方に見える竜巻や響き渡る雷鳴は、膨大な力の具現。
こんな場所にまで影響を与えるなんて、一体どれほどの力が持ち主なのか。
あの戦場で一体何が行われているのかは、民衆である彼らには知る術がない。
しかし、あれを引き起こした者が何者かは徐々に街の皆が知るところとなっていた。
「
「龍殺し? あそこにいるのはまさかっ、あの龍殺しなのかッ!?」
「おい! そこのお前何をしている、避難指示が出ているのだぞ! 勝手な行動をして治安を乱すなっ!」
「知ったことか。いいか、オレはな」
嘗て、この国に夢を与えた一人の子供。
大貴族、風のデニング公爵家直系三男。
黒龍討伐を果たし、忽然と姿を消した
「オレはな、デニング公爵領地の出身なんだよ‼」
――王都ダリスに現れるとは、誰も予想していなかったのである。
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