252豚 ――シャーロットと女王陛下
ところ変わって、こちらは風がたなびく高所だ。
王都ダリスを包み囲む石の城壁。
本来は兵士のみに立ち入りを許される高い防御壁上の細い通路からは王都ダリスが一望出来た。
「はわわ……風が」
風に流されそうになる長いシルバーヘア―を必死に抑えつけ、シャーロットの口からは情けない声が零れ出る。
公爵家三男スロウ・デニングの専属従者は城壁の上で冷たい石の手すりに手を置き、王都ダリスの街並みを見つめていた。
久しぶりに戻ってきた王都はシャーロットにとって馴染み深い場所、というわけではない。
思い出す限りでも数度しか来たことがない場所だが、それでも記憶にある光景とは打って変わって慌ただしい。
瞳に映る街並みの中に慌てて逃げる者や屋根に上ろうとする男を必死で止める兵の姿。子供を宥める母親や空に浮かぶ煉瓦の塊を撃ち落とす魔法使い。平時であれば絶景であろう光景も、今の彼女にはそれらをのんびり眺めている心の余裕はどこにもない。
――
王都ダリスに時を知らせる時計塔を巨大な
「はわわわわ……あの中にスロウ様がっ」
巻き起こる竜巻の周りには白マントを羽織った
ついさっきまではあの竜巻の中から恐ろしい雷や耳を塞ぎたくなる轟きが溢れ出していたのだが、今では静かに鳴りを潜め、それを好機とみた
王室の守護者と呼ばれる彼らがそこまで必死になる理由。
それは、守るべき姫があの竜巻の中に閉じ込められているからだ。
具体的に言えば、カリーナ姫その人が。
「……それで、あの
「は、はいっ! そうです! あれはスロウ様の魔法ですから! 私も久しぶりに見ましたけどっ!」
シャーロットを取り巻く現状は激変した。
もはやお昼に何を食べていたかさえ思い出せない。
スロウと王女であるカリーナ姫を連れた雷魔法達が店外に出て暫くした後、店内に取り残された者達は兵士によって救い出された。しかし外に出ると王室騎士達や彼女の主の姿はどこにも見えず。
はてはてスロウらはどこに行ったのだろうとシャーロットが首を捻っていたら事態は急変。
アリシアの身分やスロウの従者であるシャーロットの素性がばれると、身分の高そうな貴族階級にある兵士に囲まれ、王都を囲む要塞化された城壁内部へと連れていかれることとなった。
アリシアに語りかけていた兵曰く。王都で発生した暴動はほぼ鎮圧されているが、万が一を考えて自分達を一番安全な場所に連れていくのだとか。そこには同盟国であるサーキスタのお姫様を少しでも安心させようとする配慮もあったのだろう。
そして城壁に向かう道中、突如王都ダリスの中で――あの竜巻は轟音と共に発生したのだ。
「あの中にカリーナがいるのね……あぁ、なんということでしょう……」
城壁の上に続く階段を上ると、飛躍的に兵士の数は増加。兵士が大勢いるので安全なのかとシャーロットは一端思ったが、階段を登りきると彼女は全てを理解する。
城壁上の通路では黄金の髪を持つ優しげで細身の貴婦人と白マントを羽織る白髪の男がシャーロット達を待っていたのだ。
「……――でも、よくよく考えてみれば良い機会ね。あの子みたいな引き籠もりは竜巻に巻き込まれるのも悪く無い経験、ちょっとした刺激になって少しはまともになるんじゃないかしら。ねぇ、貴方もそう思わない? ルドルフ」
「……大失態だなヨハネ・マルディーニ……姫のお守りすら満足に出来ないとは……やはり俺が王室騎士団長に相応しい……。しかし王室騎士ともあろう者達があの程度の竜巻を突破すら出来ないとは……やはり俺が……しかし俺は陛下専属…………あぁ腹が痛い……」
慌しく兵士が動き回っているこの城壁上において、男女二人は何ら動じることなく王都に生まれた激しい竜巻を見つめていた。
カリーナの正体にはすぐ気付けなったシャーロットだが、その二人についてはすぐにピンときた。が、理解すると同時に歩けなくなくなるぐらいガチガチに緊張。
先の兵士は二人を一番安全な場所に連れて行くと言っていたがそりゃあそうだ。
幸か不幸かシャーロットは――騎士国家の
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