208豚 不敗神話の崩壊③
焔舞い散る闇の中。
闇の大精霊は杖を振るう。
相手は死を恐れない六体のリッチ。
三銃士ドライバック・シュタイベルトの命と同化した諸悪の根源。
リッチを足止めする。
ただそれだけが彼女に与えられた役目だった。
”
「アタシには――事情があるのよッ! 戦闘狂の爺には分からない事情がッ! ていうか全部爺のせいでしょ!」
”ふはは、心躍る闘争こそが儂の美学! あれ程の強者を前にして座して待つなど出来るわけもなく! だが、珍しい! 貴様が人の子に乗せられ力を振るうとは!”
唇嚙みしめる。
そんなこと、
あの少年が思い浮かぶストーリー上の役者として、意のままに動かされている。
「うっさい! そんなことはね、アタシが一番不思議に思ってるのよ! それより爺! 風属性のリッチはどこ行ったの!」
才能だけなら大精霊たる己すらも超えているだろう。
”あちらだ!
「だからぁ、分かってるって言ってるでしょ!」
リッチをこの場に足止める。
ダンジョンコアを破壊し、三銃士をリッチから解放すると宣言した少年との約束。
しかし幾度も蘇るリッチはまさに死者の怨念のようで、こんなモンスターをぶつけたダークエルフには僅かな同情すら感じられた。
「見つけた」
ダークエルフとの闘いに明け暮れていたドストル帝国に都合良く現れたダークヒーロー、たった一人で戦局を変えてしまった呪われた少年。
死せども蘇るモンスターの軍勢を率いし、半人半魔のダンジョンマスター。
前代ダンジョンマスターであるリッチの命、その身に埋め込められたと推測されるダンジョンコアは既に全身と同化している。
人でありながら、人でない。
人でないのなら、良心が痛む余地は無い。
「もうちょっと、死んでなさい」
彼女と帝国は少年を鋼の戦士へと育て上げ、遂に彼は達成した。
精霊との繋がり強き怨敵を草すら咲かぬ最北端に追い詰めた。
ダークエルフが降伏を選んだ今、もはや三銃士ドライバック・シュタイベルトにもコントロール出来ぬ異能は無用の長物と成り果てる。
戦時の英雄は平時の悪夢と化した。
”
暗闇に生きた少年の心はとうの昔に壊れている。
もう笑った顔すら思い出せない。
ダンジョンから救い出された少年、帝都で見るもの全てに瞳輝かせていた若者はどこにもいない。
もはや、北方の救世主が何を考えているのかは彼女にすら分からない。
”小童の言う終わりの到来というやつだ!”
そんなあの子が志願した。
自分の意思を出すなんて珍しいこともあるものだ。
うらやかな春を満喫出来る南方への度は気晴らしになるかもしれない。
そう思って許可を出したのに。
――死ぬために三銃士はこの地にやって来たのだと。
――古の魔王眠るこの地で蘇る魔王に滅されるために。
――帝国の邪魔とならぬこの場所で。
「何であの子の気持ちが――アイツにわかるのよッ!」
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