207豚 不敗神話の崩壊②
”
燃える、燃える、燃やし尽くす。
荒野に突き刺された一本の細剣から黒炎がメラメラと燃え上がる。
炎は触手のように形を変え付近のモンスター、特に銀の砂丘に由来するものを重点的に喰らい尽くした。
意思持つ炎、それこそが
光のない荒野に火の大精霊が荒れ狂う。
”アルトアンジュ! お主が人間に懐くなどあり得ぬと思っていたが!”
銀の砂丘のモンスターが狩られるだけの無力な存在に見えるのは異常なことだ。氷塊の固い殻を破り生まれたモンスター達は一体一体が冒険者ギルドが特別クエストと称し、高位冒険者のグループに依頼する程の格を持ったものばかり。
”――記憶を覗けば、得心を得た!”
だが火の大精霊の黒炎とくれば話は別だ。
細剣、
シューヤ・ニュケルンを中心に起こったもう一つの未来。
アニメの中では第三クールのラストシーン。
三銃士の一人が指揮する軍を打ち破った一つの要因。
火の大精霊がシューヤの仲間に分け与えた力がこの地に再誕しているのだから。
”全てを差し出した幼日のシューヤとは異なる勇気!
長年を魔法の探求に費やしたリッチの技如きでは到底、及ぶべくもなく。
”だが、枷は外れた! アルトアンジュが認めたのなら貴様を縛る鎖はもはやどこにも存在しえぬ! しかしアルトアンジュもバカな真似を! これ程の才能をたった一人の娘のために縛り付けるとは! 愚かしい、呆れ果てる暴挙だ風の大精霊!”
狂い咲く炎の大海によってモンスターが灼かれるいく。
成長途中でありながら、銀の砂丘に生きたモンスター達が氷の殻から抜け出すことを選択するほどに――
”儂が貴様に憑依すれば恐ろしい力を得られただろう! しかし真に無念であるが既に儂は宿主を選んでおる!
荒野を染める真っ黒な火炎。
”――だが実に気分がいい! 貴様の呆れた覚悟を知り我が身張り裂けるようだ!
魔の一匹たりとも逃がさない。
”貴様の心が儂の炎に熱をくべる! 故に火の大精霊は宿主を選ぶのだ!”
火の大精霊がこれ程の力を振るうのは本当に久しぶりのことだった。
もしかしすると幼きシューヤを宿主に選んだあの時以来の炎かもしれない。
”
シューヤの願いに応え、水晶の中に閉じこもるぐらいに弱体化した自分。
いつか来るその時のために力を蓄え続け、ダンジョン都市にてようやく強者に出会った。
その瞬間こそが宿主たるシューヤの寿命の筈だった。
だが、あの全属性の少年に纏わる秘密を知った。
幼日のシューヤと同じように、幼日にあの少年も覚悟したのだ。
スロウ・デニングは
そんな二人の覚悟は似ているようで、実に遠い。
”シューヤ! あの日、儂はお主の中に可能性を見たのだ! お前は考え無しで儂の甘言を全て受け入れた! 呆れる程の素直さを前に、儂は――!”
もはや宿主は決めてしまった。
人形が形を無くすまでは次なる宿主を選べない。
いや、何を馬鹿な考えを。
次の宿主なんてものは必要無い。
既に火の大精霊は確信しているのだから。
火の大精霊が選んだ
”そうだな、確かに貴様の思う通りだ! これで終わりでは実に勿体ない!!”
火の大精霊がもう一つ高みに上るための
"――まだあ奴は火の精霊すらも感じられぬ半人前だが芽生えの時は近い。故にスロウ・デニング! 貴様の口車に乗ってやろう! この魔
勢いづいた
腕のように伸びる黒炎がリッチの身体覆い尽くすローブに及ぼうとしたとき、炎は途端に蒸発し大気に散った。
”……いつもいつも儂の邪魔をする奴だ。大人しく眠っていればいいものを”
「どさくさに紛れてアタシの獲物に触手を伸ばさないで!――それよりエルドレッドの爺ッ! 何でアンタがスローデニングに力を貸しているの!
戦場の中心地、荒れ果てた大地に突き刺さる焔剣の傍へと近寄る小さな影。
アニメの中では長きに渡る死闘を繰り広げた彼らこそが、戦場と化した荒野を支配する二人に他ならなかった。
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