171豚 炎の戦闘人形【① sideシューヤ】
「根拠は? 赤毛の魔法使い君」
あちこちで装備を整えている冒険者の姿が見える。
剣士が剣に何か塗っていたり.……うお、毒々しい色、あれは間違いなく毒だな。さらにだぼっとした服を着ている人が小型のナイフを内側ポケットに幾つか仕込んでいたり、まさに私は僧侶です! みたいな格好をした女性が地面に置いたポーションの数を数えていたり、後発組はしっかりと準備を整えてからダンジョンに向かうみたいだ。
そんな後発組とは対照的に
「簡単な話ですよ。
「
「し、シューヤ! 待ち、待ちなさいッ!」
「ええと。それでですね―――どうして俺が古の魔王は
ダンジョン都市に朝と夜の区別は無い。
荒野に存在するダンジョンの中には夜でこそ意味があるダンジョンが幾つも存在する。俺たちが昨夜から朝まで潜っていた
だから例え日が落ちても、冒険者がそこら中にいるのはダンジョン都市では当たり前の日常だ。それでもいつもと違うのは充満する熱のようにギラギラとした異様な雰囲気がユニバースを包みこんでいること。
店を構える商人の人たちも談笑しながら、古の魔王と共に眠る財宝がどんなものなのか噂し合っている。一山当てた冒険者達は金を使うことを躊躇わないから、賭場も今夜は朝まで営業するみたいだった。
活気に沸くダンジョン都市を荒野に向かって俺達は走る。リンカーンさんは炎を吹き出す魔道具、
先に行った先行組に追いつくために、俺たちは急いで走っていた。
「ぜえぜえ、こら待てええええ!!!」
「
「待ちなさいっ! 早い! 走るの早すぎですわ!」
「ふうん、それで?」
「……古の魔王の時代より後に生まれたんですよ。
「そういうこと……ひゅー、やるわね貴方。名前は?」
「シューヤ・ニュケルン。やっと俺の名前も覚えてくれる気になったんですね」
「待って……お願いだから……はあ……ま……はぁ……待ってよ……」
リンカーンさんはアリシアの護衛だ。
高位冒険者にとっては俺なんてアリシアの傍にいるおまけの様なもので、今までは俺のことなんて眼中に全く入ったなかった。
まさにモブキャラって扱いだ。
だけど、それも仕方ない。
リンカーンさんは
だから名前を覚えてもらえるのはちょっと嬉しかった。
「ニュケルン……―――? どこかで聞いたことがあるわね」
「……えーと。リンカーンさん。気づいていますか? 何か様子が変です」
ちょうどその時、俺とリンカーンさんは街の中心部へと引き返してくる冒険者の一団とすれ違った。何やら青い顔で、脇目も降らずに一直線に戻ってくる。
「聞い―――ぞ……―――奴らが―――る!」
「―――るか! いい―――考えな―――ばい―――ことはどう―――て―――かだ!」
荒野の向こう側にある
魔王の伝説にあれだけ熱狂してた彼らがまるで恐ろしいものを見たかのように顔を蒼白にして後戻り。
一体、何があったんだろう?
「功を焦った冒険者同士の争いにでも巻き込まれたのかしら……ってあれ? いつのまにかアリシア様がいないわね」
「……こ、ここに、いますわ……」
「あら、アリシア様、そんなところに。どこに行っていたんですか、私から離れないでってあれ程言ったじゃありませんか」
「はあ、はあ。よくも置いてきぼりに……はぁっ、はぁ……護衛の癖に……ふざけてますわ……絶対なめてますわね……私を……」
アリシアは俺達を睨み付けるが、ヘトヘトなので迫力はなかった。
俺達は疲労困憊状態らしいアリシアの速さに合わせて、すれ違いざまにダンジョン都市に舞い戻った冒険者達の声に耳を傾ける。
だが、いまいち要領を得ない会話や独り言ばかり。やれ強力なモンスターが現れただの、あれは古の魔王の使いに違いないだの、俺は逃げる、いや俺はミネルヴァからの応援が来るまで待つぞ等、断片的な情報しか入ってこない。
事態を正確に把握している人はいないようだった。
「……ふっふふふ、冒険者達は古の魔王に恐れをなしたってことですわね……シューヤ! これは私達がダンジョンに一番乗りする大チャンスですわよ!」
「―――行きましょう、リンカーンさん。きっとこの先で何かあったんです。あ、それとアリシア、俺達から離れるなよ」
「え? ……ちょっと待ちなさい! 俺達から離れるなって!? 貴方達が私を置いていこうとしたんじゃありませんの―――ッ!!! こら――私を置いていくな―――ッ!!!」
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