169豚 人知を超えた第六感【後編③ sideシューヤ】

「一体何なんですの! 人をこんな人気の無い場所に連れてきて! 高位冒険者でもやっぱり冒険者は野蛮なんですわね!」


 ダンジョン都市は今なお拡張を続け、外周には新しい家が次々とつくられている。

 その中の一つに俺たちは連れてこられていた。

 丸テーブルに埃の被ったベットが一つ、全く生活感が感じられない。まだ誰も使ったことのない家なんだろう。俺たちの護衛らしいリンカーンさんは焔剣を壁に立て掛けて、ぼふっとベッドの縁に座っていた。


 それにしても結構走ったから街の中心部にあるネメシスからはかなり離れてしまった。

 俺は問題無いけどアリシアはかなり息が荒い。


「私に与えられた特別クエストはアリシア様をこれから起こるごたごたから守り抜くこと。ネメシスに連れていくことが私の仕事じゃないわ」

「だからって腕を掴むことはないですわ! ほらここ! 赤くなってる! 赤くなってる!」


 アリシアは掴まれた左腕を何度も指差している。

 確かにオカマ、じゃなくてリンカーンさん掴まれたところの肌が赤くなっていた。


「うるさいわねえー……一応は冒険者なんでしょ? それがちょっと腕が赤くなったぐらいでぴーちくぱーちくひな鳥のように騒がないて頂戴」

「誰がひな鳥ですって! それに冒険者稼業はもう終わりにしようと思ってたところですわ! 杖を取り返して豚のスロウをダリスに連れ帰って、こことはおさらば! 折角のお金は賭場で全部すっちゃうし、ダンジョンにやっと慣れてきたと思ったら杖をモンスター取られちゃうし、護衛の筈の冒険者には腕を掴まれて赤くなっちゃうし」


 文句を言いながら、アリシアはぶーたれる。

 一応は冒険者として生きてきた数週間。そんな生活の中でも宿でも寝る前にお肌の手入れを欠かさなかったアリシアはこの街に来てからの不満が一気に噴出しているようだった。


「もう、最悪ですわ!」


 赤くなった腕をふーふーして冷まそうとしているけど、それは意味ないんじゃないかなと俺は思った。俺まで怒られそうなんで何も言わないけど。

 君子危うきに近寄らずである。


「シューヤ! あなたも何とか言ったらどうなんですの! あれ程ネメシスでギルドマスターの発表を聞くんだーって楽しみにしてたじゃないですの! ……ふーふー」


 あー、やっぱり俺にまでとばっちりが。

 でも確かにその通りだ。実はメチャクチャ楽しみにしていたのだ。

 現在ダンジョン都市が管理していダンジョンの数は二十四。F級からA級までを網羅するダンジョンを求めて大勢の冒険者が集まり、莫大な富を生み出す自由連邦の中核都市。

 前に新しいダンジョンが出来たのは十年以上前のことだって言われている。新しいダンジョンの誕生を発表することでさらにこの街は発展するだろう。

 一体、どんなモンスターが出てくるダンジョンなのか。ダンジョンとしての等級はどれぐらいのもんになりそうなのか。

 気にならない? 俺は気になる。めっちゃ。


「新しいダンジョン? 赤毛の貴方、あんな噂信じてるの? そんなことあるわけないじゃない」

「……え、ギルドマスターの発表って新ダンジョンが出来たことを俺達に伝えることじゃないんですか?皆そう言ってましたよ」

「ふー、ふー。うぅ……まだ赤い」

「違うわよ、そもそも新しいダンジョンが出来たぐらいで荒野の狩場から冒険者を全員追い出すわけないでしょ、どれだけの損失が出ると思ってるの。いっとくけど、ネメシスは無人の荒野を作り出したことなんてないわ、今回の件は歴史上、初めてのことよ。まぁそれだけの事態ってことね……ちょっと、アリシア様。いつまでふーふーしてるの……悪かったって言ってるじゃない」

「ふーふー……まだ赤い……冒険者の癖に王族の腕を強く掴むなんて良い度胸してますわ。いいこと、リンカーン、これは貸しですわよ」

「はいはい、わかったわよ」

 

 王族の癖にアリシアは意外と恩着せがましいのだ。

 ほら。小さくガッツポーズしてるし。

 どうせこれを口実に後でダンジョンから杖を取り返してきてもらうお願いをするんだろう。


「あの……もしかしてリンカーンさんってギルドマスターが何でダンジョンから冒険者を追い出した理由を知ってるんですか? 何かそんな口ぶりですし」

「あら、聡いわね赤毛の魔法使い君。でもその通りよ。A級以上の高位冒険者は皆、何が起きたのかレングラム様から直接聞かされたわ。その中で私が貧乏くじを引いてアリシア様の護衛に選ばれたってわけね」

「貧乏くじって……私の護衛がどれ程恐れ多いことか分かっていないようですわね。これだからお金が全ての自由連邦の冒険者は……それにオカマ……ふーふー……」

「えーと……それで結局、何なんですか? ギルドマスターの発表って」

「どーせ大したことないに決まってますわシューヤ」


 リンカーンさんはどこからか取り出した水をごくごくと飲み干して、言った。

 恨みったらしいアリシアは無視することに決めたようだった。

 

「魔王よ。あるダンジョンの内部に魔法を生み出した古の魔王、ミネルヴァ・ゾーンダークの墓場があることが判明したわ」

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