168豚 人知を超えた第六感【後編② sideシューヤ】
冒険者ギルド南方本部ネメシスに俺達は向かっていた
膨大な石材で造り上げられた巨大な迷宮の顔を持つダンジョン都市。
ユニバースは荒野の中に造られた街ということで石という資源がそこら中に埋もれている。だから住居なんかは大抵が石で作られていた。木々や鉄骨なんてしゃれた材もないし、他所から運んでくるのも手間が掛かる。というわけで荒野にある石を切り崩して切り崩して、ユニバースに運び都市を造り上げた。
どうせ冒険者達が住む街であり、金遣いの荒い彼らを求めて反逆ギルドの手先である商人達が住む町だ。一般人なんて殆どいない。
冒険者は住む場所にこだわらない。だから多少劣悪でも構わない。
石造りの住居が迷宮のように立ち並ぶ、それがダンジョン都市ユニバースである。
ギルドマスターの発表は結局、深夜近くになった。
石造りの都市は昼間は太陽の日差しで石に熱が篭りかなり暑いが、夜になるとひんやりとして涼しい。がやがやと冒険者達が喚き散らしながら、鎧や甲冑に身を包んだ大勢の冒険者がネメシスに向かっている。
そこら中に火が焚かれ、お祭り騒ぎのような感じだ。
「アリシアー。デニングがいたら大騒ぎになってるって。今はもうユニバース中の人がデニングの顔知ってるんだからさ」
「シューヤ。豚のスロウのことは私が一番分かってますわ。あいつがこういうお祭り騒ぎを見逃す筈ありませんもの。クルッシュ魔法学園の入学式であいつが何したか、シューヤはもう忘れたんですの?」
「忘れられるかよ……何十頭もの本物の豚が大暴れ。伝説だよなあ……ていうか今更だけどデニングはあの沢山の豚をどうやって学園に持ち込んだんだろうな……」
堕ちた風の神童、豚公爵の逸話は大陸中にまで響いている。
それはつまりデニングが行ってきた悪戯は一般常識を超えて、とんでもない規模の逸話をあいつが残してきたということを現している。
クルッシュ魔法学園入学式に行われた豚祭りも豚公爵伝説のほんの一部である。
「昔の豚のスロウならギルドマスターの発表をぶち壊して、何か馬鹿なことをしでかすに違いありませんけど……」
「お前の大好きなデニングが戻ってきた。さて、今のあいつなら何を考えるかな?」
「しゅ、シューヤ!! 別に大好きなんかじゃありませんわ!!!! 変なことを言うのはやめて!!!」
「はいはい、分かったよ」
俺たちはてくてくとネメシスに向かって歩いている。
ダンジョン都市に聳える一際巨大なネメシスは、もはやでかすぎる岩石といってもいいかもしれない。幾つもの巨大な岩石を切り出し、整え、組み合わせ、大迫力の無骨な建物。五階建てで一階は受付や低位冒険者のためのフロア、二階が中位冒険者のための、そして三階が高位冒険者のためのフロアになっている。
「シューヤ! 貴方は勘違いしてますわ! 確かに私は豚のスロウに会いたいですけど、それは恋とか、そういう感情ではありませんわ! いいこと! そこははっきりしておきますわ!!」
「じゃあ何でおめかしなんかしてるんだよ」
「これは……別に貴方には関係のないことですわ!!!」
そんな言い合いをする俺達を大剣を背負った高位冒険者、ユニバースでも有名なオカマさんが呆れ顔を見て、溜息を付いていた。
俺達の護衛はこのユニバースでも有名な冒険者、燃える大剣『
俺は最初、
「っち、これじゃあ子供のお守りじゃない……ほんと最悪ね。幾ら特別クエストを失敗したからってこりゃねえわレングラム様…………それにどうして化粧して、そんなふざけた服を着てるのかしら。職員の話ではアリシア様は一応は冒険者って話だったけど……はぁ。貧乏くじね」
いや訂正。
リンカーンさんは俺達じゃない、アリシアを見て絶望していた。
ネメシスに向かう冒険者の中でアリシアの背格好、ではなくそのふりふりした格好は酷く異質なものだった。
あの後、アリシアはやっぱり着替えると言って部屋に篭ってしまったのだ。
そして出てきた姿を見て俺は唖然とした。
ふんわりとしたスカートにちょっと薄着のブラウス。俺が言うのもあれだけど、最近はダンジョン都市で戦い馬鹿な女冒険者ばっかり見てたから、本来女の子ってこういう格好するんだよなあと感動してしまった。
でもダンジョン都市にこれ程似合わない格好もないだろう。
今はこの人だかりの中にデニングがこっそり紛れていないか、ぴょんぴょんとつま先立ちをしながら歩いている。そんなアリシアの姿は周りからメチャクチャ視線を集めているが本人はどこ吹く風って感じだ。
それにユニバースの全冒険者、五千近い人数が今ネメシスに集まろうとしているんだ。例えデニングがこの中にいたとしても見つけることは不可能だろう。
「あのオカ……あ、いや。リンカーンさん。やっぱりあの噂って本当だったんですか?」
「噂?」
「皇国に潜ってモンスターに手酷くやられたって噂ですよ」
「語弊があるわ……モンスターにやられたんじゃないわ。ふざけたオークに化けた人間、くそったれな魔法使いにやられたのよ! ……くそ! くそお”お”お”お”お”おおおおおおおお!! 思い出すだけでも虫唾が走る!」
「オークに化けた人間……? あ! ちょっとリンカーンさん! 危ないですって!」
「くそお”お”お”お”お”おおおおおおおお!! 私の特A級冒険者への昇格がああああ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”!!!!!」
オカマのリンカーンさんは背中の大剣に手を掛け、一気に振り下ろす。
ぶおんと風が吹き、赤いドレッドヘアがなびく、周りにいた冒険者達が一気に俺達との間に距離を開けた。
その隙を見計らってアリシアがまたぴょんぴょんと飛び跳ねている。
「いつまで飛び跳ねてるの……それよりそっちじゃないわ。こっちに来なさい!」
リンカーンさんはアリシアの腕をぐっと掴んだ。
体勢を崩してアリシアが倒れそうになっていた。
「ちょ、ちょっと! 何するんですの! お、オカマ! 気安く触るんじゃないですわ!」
「黙りなさい! 私は貴方の護衛! いいから着いてきなさい!」
人の流れに逆らって、リンカーンさんと強引に連れて行かれているアリシアが細い路地に入り込む。俺は二人の後を慌てて追いかけていった。
「オカマ! こら! 離しなさい! 離せ!」
正直言ってアリシアの手を引く筋骨逞しいオカマの光景は、美少女が奴隷商人に誘拐されているようにしか見えなかった。
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