163豚 現実逃避ぶひ! inダンジョン!

 煌く光が瞬時に敵対するモンスターを焼き尽くし―――。

 うわー、すごいなあ。

 ―――正確無比な魔法曲線が逃げ惑うモンスターの行く先で待ち構えていた。 

 やべー、なんだあれ。


 ……ぶひぃ。

 俺は絶賛、現実逃避の真っ最中でした。

 その理由は今目の前で起こっている現象に頭が付いていかないからなんだけど、詳しくは少し後で喋ることにします。


「がつぶひ」


 えー。

 ダリスで俺に対してブチ切れているだろう父上、母上。

 お元気ですか?


 俺は元気です。

 とっても元気です。

 仲間だと思っていた風の大精霊とかいう黒猫に殺されかけましたけど、とっても元気です。


 元気なので探さないでくれると嬉しいです。

 そのうち、ひょっこり顔を出すと思いますので……たぶん。

 

「がつがつぶひぶひ」


 えー。

 次期デニング公爵継承権を争っているだろう兄妹の皆さま。

 お元気ですか?


 俺は元気です。

 少なくとも俺は次期公爵になる気持ちなんてほとほと無いので安心して下さい。

 いじょ!


「がつがつもぐもぐ」


 えー。

 ダリスで俺のことを呪っているだろうシルバ。

 元気?

 実は俺が風の大精霊さんにフルボッコにされて半死の間、お前がマルディーニ枢機卿とかバルデン守護騎士ガーディアンにフルボッコにされてる夢を見たんだけど正夢じゃないよな?

 ……ぶひぶひ。

 あ、いや。これは別に笑ってるわけじゃないから。

 

 でも、ま。

 大丈夫だよな。

 何て言ったってお前はあの仮面の男。

 アニメの中ではシャーロットやシューヤ達を助けるために数万の帝国軍に立ち向かう覚悟を持っていた。


 だから俺も安心してお前に任せられる。

 何せ魔法鉱石の最大産出地、ダリスの不可侵領域アンタッチャブルを解放するためには二つの鍵が必要だ。

 一つは汚染に耐えられる強靭な魔法能力、そしてもう一つは縁ある者。

 前者は俺が、後者はお前が。

 お互いに分担して、最速で平和を達成していこうぜ。


 ……いじょ!


「がつがつもぐもぐぶひいぶひい」


 あ、そうだそうだ。

 カリーナ姫、その後の経過はいかがお過ごしでしょうか。


 実は俺、ずっと貴女のことが気になっていたんです。

 あの時の貴女は死にかけで、俺も時間が無かったから力任せに治療することしか出来ませんでした。

 俺は水の魔法の専門家ではないので、その後貴女の身に何か後遺症等が出ていないかとっても心配しています。

 なので近い内に貴女にだけはこっそりと会いにいこうと思っています。


 けれど俺は貴女の国から手配されている身の上です。

 全ては何も言わずに国を出た俺が悪いのですが、こちらにも事情があったんです。


 貴女は祖国の未来を担う女王となるお方です。

 ですがダリスの古城にいる貴女に会いに行くのは無謀すぎるので俺も色々考えたんです。


 そしたら、ちょうどいいイベントがあったのを思い出しました。


 サーキスタで行われる舞踏祭、その名も”青苑祭”。

 アニメの中ではアリシアのお供としてシューヤが参加したお祭りが近々、水の都で行われますよね。

  

 カリーナ姫、実はアニメの主人公であるシューヤは舞踏会でダリスの姫である貴女を探そうとしてたんです。

 けれどあいつは滅多に表に出てくることのない貴女の姿を知らなかったし、参加していた沢山の可愛い子達に目を奪われて結局貴方を見つけることは出来なかった。


 でも、俺は貴女を知っています。

 貴女の姿は今も瞼の裏に焼き付いて離れません。

 何せかなり衝撃的な出会いでしたからね。

 

 青苑祭に、必ず貴女は招待される筈です。

 そして貴女と少しだけお話しをするために、これ以上都合の良いイベントは存在しません。

 だから大勢の出席者に紛れて、俺は貴女に会いにいきます。


 けれど一つだけ不安事項もあるんです。

 各国の有力者達が集う青苑祭はもしかすると今まで以上の大規模なものになる可能性があります。

 これからダンジョン都市で起こるであろうイベントを俺が制圧することが出来れば―――青苑祭は南方各国の未来に向けた祝賀会に様変わりすることになるでしょう。


 いえ、間違いでした。

 青苑祭を必ず―――必ず―――祝いの祭りへと変えてみせます。

 そのために俺は決死の覚悟と共に―――魔王という時限爆弾、そして帝国最強の三銃士を抱えるこの荒野にやってきたんです。


 しかし青苑祭が今まで以上に煌びやかなものになれば、人前に出ることが苦手らしい貴女はお祭りの中で浮いてしまうかもしれませんね。


 ですが、ご心配無くプリンセス。

 ダンスや振る舞い、果てはテーブルマナーに至るまで―――

 俺が完璧に―――貴女をエスコートしてみせるつもりです。


 ……。

 ……ぶひぶひ。

 シューヤも驚いた青苑祭で出される豪華な食事が目的とかそんなことでは決してありません……。

 

 ……いじょ!

   

「ぶひぶひもぐもぐ」

「す、すごい! スロウ様! あのスケルトンさんすごいですよ! 魔法です! 魔法の乱れ撃ちです! あんなに魔法が上手なスケルトンさんなんて聞いたこともありません! もしかして新種のスケルトンさんなんでしょうか! それにスロウ様の魔法より何ていうか……丁寧って感じですッ! ほら見てください! ……もう! 何でこんな状況で冬眠から覚めたカエルみたいにぼけ~っと出来るんですか!」


 おっと。

 シャーロットに逃れられぬ現実へと引き戻されたので、ダリスにいるだろう皆さんに思いを馳せるのはそろそろ止めます。


 えー。

 それではダリスの皆さん。

 最後に一言。


「少し前の自分を思い出してください! 俺はダイエットするとか言って輝いてたスロウ様はほんとにどこに行っちゃったんですか! このままだとスロウ様がよく言ってる暗黒豚公爵時代に逆戻りですよ!」

「がつがつぶひぶひぶっひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ」


 俺いま、とっても幸せです。


 だから例えアニメの中で最強のナンバー1、2が相手となろうとも―――

 ―――絶対に負ける気がしませんと、この夢の中だけでも皆さんに宣言しておきます。

 

 いじょ!

 現実逃避、おわりっ!

 ぶひぶひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!

 やったるぞおおおおおお!!!!!

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