162豚 両翼の騎士は舞い戻る【② sideダリス】
「学者風情が―――貴様今、シルバの
参列する王室騎士達の中でも特に不機嫌そうな態度を隠しもしない者がいた。
王室騎士団副団長の座に就き、騎士国家ダリスで最も名を馳せる初老の騎士。
彼こそが
本来は女王の傍に片時も離れず警護に付くのが彼の日課なのだが、女王は今カリーナ姫と親子水入らずで談笑することを望んでいる。そこにあの金髪の貴族の若者がいるのが気に食わないが、女王からこの会議に出席するよう言われれば断ることなど出来なかった。
「申し訳ありません、
アカデミー研究員の頬の赤みが言葉の勢いと共に増していく。
魔道具として、世界でも類を見ない最高純度の魔法鉱石をふんだんに使用することによって造られる
原材料が手に入らなくなった今では造り出すことの出来ない魔道具の極致とも言える至高の剣に行われた属性変化。
一体、どれだけの魔法の力が加えられたのか。
研究者として興奮せずにはいられなかった。
「事態を目撃した学園の生徒によると、シルバは空から突然に現れたとのこと、あれは浮遊の魔法に違いないと証言する生徒も数多く存在しております。されど浮遊は人の身に余る魔法行使であり、本国が掲げる三大研究課題の一つでもあります。我らが初代魔王ですら達成出来なかったとされる未踏魔法に魔法行使の実績が無いシルバが辿り着ける訳が無くスロウ・デニングを通して
瞼を閉じ、終始険しい顔を崩すことのなかったマルディーニ枢機卿が頷いた。
ダリス王族を除いて、光の大精霊と意思疎通が可能とされる存在が枢機卿であった。
「アカデミーではスロウ・デニングに
彼らは知らない。
この物語が一体いつから始まっていたのか。
「しかし、我らアカデミーにはスロウ・デニングに関しての情報が欠けております! 特にスロウ・デニングが風の神童と呼ばれていた時代に何があったのか! 堕ちた風の神童に対しての余りに酷い風評、愚かな逸話が彼の神童としての過去を塗り潰されているのです! スロウ・デニングが謎めいた豚となる前の幼少期の伝説にこそ、我らアカデミーは彼と
彼らは知らない。
知れる筈も無かった。
強固な意志と貫く覚悟。
彼には偽りの己を演じてでも隠し通す理由があったのだから。
「そして我らアカデミーは嘗てデニング領でまことしやかに囁かれた奇っ怪な噂について確かめたいとも考えております」
皇国は滅び、彼女の家族はどこにもいない。
国を忘れ、ただ一人のどこにでもいるような少女であることを彼女の家族は望んだ。
そして彼女もまた、もはや王族であったことなど思い出さない。
「嘗て大勢のデニング領民が見ていたそうではないですか! かの風の神童が誰もいない森の中で誰かと語らう姿を! そしてその姿から一つの逸話が生まれた! スロウ・デニングは精霊の姿が見え、彼らと言葉を交わすことすら出来るらしいとの噂が! もしこの話が事実なら我らアカデミーは本国と連携して彼を探し出し、貴国にスロウ・デニング捜索に関して協力することを約束致しましょう! 何故なら精霊との意思疎通は本国初代魔王の力にして三大研究課題の最も優先されるべき魔法の源! さあ、この問いに応えて頂くために我々は貴方をこの場にお呼びしたのです―――バルデロイ・デニング公爵!」
忽然と姿を消したドラゴンスレイヤー。
彼の従者が今、自由連邦のダンジョン都市が抱えるC級ダンジョンの中で、一匹のオークスケルトンと出会いぶひぶひ〜と和やかな挨拶を交わし合った主を呆れた表情で見つめていたこと等、現時点ではダリスの誰も知る由が無かったのである。
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