164豚 風の神童と古の魔王【中編①】
ダンジョン上層と下層を繋ぐ分岐点。
「オオオオオォォォオオオォォォオオオォォォォォォ」
「オオオォオオォォオオォォォォォ」
だだっ広い半球状空間を造り上げる土壁に刻まれた数十の穴倉からは両手を伸ばして忍び寄る大勢のゾンビが這い出してきていた。
だが、俺達が潜っているのは駆け出し冒険者が利用するC級ダンジョン。それも上層に出てくるようなゾンビの動きはのろまで、一体一なら冒険者でもない一般人でも対処出来るモンスターである。
けれど、雪崩のように押し寄せてくるモンスターの集団は低位冒険者にとっては悪夢のような光景に見えるのだろう。
「オオオオオォォォオオオォォォオオオォォォォォォ」
「ぶひ🎵」
オークスケルトンがひとさし指の骨をゾンビにひょいひょいと向けてゆく。すると骨先から白く眩い光が膨れ上がり、溢れ出る霞のような白光に触れたモンスター達が浄化され消えていく。
恐ろしい程広範囲の浄化魔法。
オークスケルトンはまるで自分は俺達のボディガードだと言わんばかりにバンバン光の魔法を発動させ、ゾンビを浄化していく。
「……ぶひい」
あ、今のは俺の声ね。
全く。
オークスケルトンの声が俺とカブって紛らわしいったらありゃあしない。
……。
ん?
オークスケルトンが大活躍している時に俺が何してるかって?
俺はぶひぶひもぐもぐと身体にエネルギーを摂取しているだけだよ。
はぁ、うめぇ。
シャーロットは食後のデザートやお菓子まで用意してくれていたようで、本当にしっかりした従者さんだなぁと思わずにはいられない。
チラリ。
最近何かと怒りっぽくなったシャーロットにまた文句を言われないかと俺は恐る恐るシルバーヘアーの彼女を覗き見る。
実は俺が相談もせず好き勝手にやっているせいでシャーロットについさっき「スロウ様にはもっと厳しくします! 私は従者ですから!」ときつーく言われてしまったのだ。
「―――眠りし――――――の―――未来を――――――目覚めし時―――な探求者に――――――。モンスターで――――――し――――――魔法――――――」
スパルタ宣言を唱えたシャーロットは未だガツガツ状態の俺に気付かず、魔法でゾンビを浄化し続けているオークスケルトンを一心不乱に凝視し、小声で何かを呟いていた。
「――――――」
これは……大昔に姿を消した魔王が残した予言の暗唱かな。
そう、魔道大国ミネルヴァを興した初代国王でもあるミネルヴァ・ゾーンダーク。
魔法現象を精霊の仕業だと解明した研究者にして大陸各地に散らばるアカデミーの創設者。
そして当時起きていた戦争を解決に導いた
だが、魔法の開祖として魔王とまで呼ばれるに至った彼女は大いなる遺産を人間に残した後、ぱったりと姿を消してしまった。
「遠い先―――――――人でありながら――――――必ず――――――す。モンスター―――――――――人間とも――――――災厄は―――――――――破滅と――――――ために――――――眠りに――――――」
彼女が消える前に残した多くの予言。
その中には遠い未来に現れるであろう世界に災いをもたらす人物についての記述まで含まれていたという。
「―――災いは――――――しかし――――――ねばならぬ――――――ダンジョンの奥地に―――――――――眠る――――――」
残された魔道大国の国民は大陸中を探し回り彼女を探したと言われている。
けれど魔王に関する一切の手がかりを見つけることが出来ず、遂には魔道大国は魔王が残した予言を全て全世界に公開した。
誰もが魔王ミネルヴァ・ゾーンダークの予言を頼りに彼女を探した。
世界を巡り、数多のダンジョンに潜った。
その結果、モンスターで蔓延する危険なダンジョンに潜る者たちを勇敢な冒険者と呼ぶようになり、そんな彼らを支援するために冒険者ギルドが設立されるまでになった。
そして大勢の者達が魔王を探したのには理由がある。
ミネルヴァ・ゾーンダークが残した預言書の中にある一節。
”一人で眠るのは寂しいので、金銀財宝とか沢山の不思議な道具と一緒に眠ることにします。多分無理だと思うけど、目を覚ます前に私を見つけた人には全部あげるよ!”
だが、誰も魔王の眠る墓地を見つけることは出来なかった。
それも当然だ。
ミネルヴァ・ゾーンダークが眠る場所はゾンビが数多く生息するダンジョンであり、生前の彼女は何よりもゾンビを嫌っていたとされていた。
生を終え、死ぬ定めを拒み世界にしがみ付く哀れなモンスターがゾンビだ。
そんな白き翼の魔王が何よりも憎む者達で溢れたダンジョンの最奥で彼女は眠り続けていた。
だからこそ、ここは本来あるべき終わりを捻じ曲げた彼女にとっての理想の墓場なんだろう。
「災厄と光――――――勇敢な探求者の前に―――浄化と――――――骸骨が現れ―――災いを吹き飛ばす! 預言書の通りですよスロウ様! あのスケルトンさんは
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